日本食研●食研だより9月号●21世紀食の座談会 |
|
座談会出席者 |
精肉業界:月城聡之(株式会社 月城流通研究所 代表取締役)
惣菜業界:林 廣美(日本フードサービス専門学院 学院長)
鮮魚業界:堀内幹夫(有限会社 エバーフレッシュ研究所 代表取締役)
川東 豊(日本食研(株) マーケティング部 部長)
井門義覚(日本食研(株) マーケティング部 宣伝広告課 課長 |
〈今年の売場の変化について・〉
「健康・安心・安全」はもう当たり前 |
川東: 本日はご多忙の中をお集まりいただきまして、ありがとうございます。おかげさまで日本食研(株)は、今年の10月1日で創業30周年を迎えます。同時に本誌「食研だより」も創刊100号を迎えました。
まず初めに、現在の各業界における売場の変化についてお話をお聞かせいただければと思います。昨年あたりから「健康・安心・安全・簡単・美味しさ・介護・高齢者」といったキーワードがよく言われています。これらに対する取り組みの現状と今後という観点から、事例を交えてお聞かせいただけますか。
林: 「健康・安心・安全・簡単」については、もうそれが当たり前という段階に入ってきていますね。それらのキーワードは、今から考えて実践していくものではなく、これからはそれがベースになります。ということは、もう有機栽培・無農薬の食品が高いのはおかしい。従来品と同じぐらい低価格でないといけません。多くの皆さんは、有機栽培・無農薬は付加価値だと思って値段を高く設定していますが、それは間違っています。もちろん仕入れ値が高いからという理由もあるでしょうが、それなら安い仕入れ先を探すなり、対応策を考えればいい。ひとつの食文化をつくっていこうというときには、そこまで立ち入らないといけません。
堀内: そうですね。「安心・安全」などはもう当然。ですから、同じやるにしてもきちんと突っ込んで取り組まなければいけない。そういう時期に来ていると思います。
それから最近変化が大きくなっていると感じるのは、寄せ鍋セットやホイル焼きセットなど、われわれの考えからすれば若い人や忙しい主婦が買うだろうと思っているような商品を、実際にはお年寄りが買っていたりすることです。売場を見ていると、そんなふうにわれわれ自身が現実に追いついていないなと感じることがあります。
月城: 「スーパーマーケットにヌのような情報を求めるか」をスーパーに来る主婦に聞いたアンケート結果は、次のようになっています。1位=旬の素材をおいしく食べるコツなど、2位=健康にプラスになる料理方法など、3位=その商品が健康にどれだけよいか、4位=その商品の特徴とその商品が他商品とどう違うか、5位=栄養素の一口メモ。というように、料理方法や健康情報を求める回答が多い。これを見て、先ほど林先生が言っておられたように、もう安くて美味しいだけでは売れないなと実感しました。
それと「安心・安全」ということが言われるようになって4年ぐらいになりますし、「食研だより」のキーワードに登場してからもちょうど4年目になりますが、スーパーで「安心・安全」というときの内容がだいぶ変わってきたと思います。例えば、売場の中で商品がたくさん売れて、どんどん回転して、並んだ商品がすぐなくなると、お客様がそれを見て"臨場感"や"ライブ感"を感じ、その売場に対して安心する。その商品が売れているから安全だと思う。といったように、一体感を持ってお客様が共生し、商品を買っていくような形に変わってきている気がします。ハセップとか衛生管理をするというベースはもちろんあって、O157以降「安心・安全」が始まったのですが、最近はそんなことが食の変化のひとつとしてあると思います。お客様が売場から五感で感じる鮮度感・安心感・安全感。逆にいえば、そういったものを売場の中に出していかないと安いだけでは売れないのではないかという気がします。
堀内先生が以前「高齢者」について書かれていましたが、そのあたりはいかがですか。
堀内: 先ほど申し上げたような、われわれが若者向けに企画したいろいろな商品をことごとくお年寄りが買っていくという現実を目の当たりにして思うのは、ひとつは簡単・便利ということです。そして、もうひとつはムダに廃棄することなく適量を買って食事をしたいと、お年寄りたちが考えていることの現れなのかなと思っています。
月城: 今、小売りが売れない原因のひとつは、消費者がムダな買い物をしなくなったことだと思います。必要なものだけを選択して買い物をするんですね。だから、安くても不要なものは買いません。
堀内: 先ほど、月城先生から"ライブ感"というお話がありました。私はこれからの成功のキーワードとして"単品量 販"ということを考えており、それは"ライブ感"ということともつながってきます。「健康・安心・安全」についても、そういう言葉を書いたシールを商品にペタペタ貼ったり、テレビでも紹介している○○ですと表示したりしても、商品自体がきちんとそれに連動していなければ、ただ形だけを整えてももう通用しなくなっています。もう一度、商品自身の企画段階から、SKUをどうつくるかとか、価格だけでなくどういうポイントを入れていけばたくさん売れるか、を考え直すときが来ています。そういう意味で、もう一度、"単品量販"の時代が来ていると思います。
|
|
〈今年の売場の変化について・〉
流通の現場では、もっとお客様の現状に即した販促を |
林: 私は女性対象の雑誌を15年ぐらいやってきましたが、雑誌でレシピを紹介してもその料理を読者が実際につくるこ とは多くありません。結局、いつもの決まった料理しかつくらないのです。情報なんて、毎日テレビで山のように流されているじゃないですか。きっと本心は料理なんかやりたくないのだと思います。やりたくないけれど一品だけ手抜きして、あとはつくるんですね。日本はアメリカと違って過渡期ですから。アメリカでは惣菜を買って使うときは、全部買ってきてテーブルに並べるだけです。だから、日本では惣菜売場が肉売場と魚売場の間にあったりします。惣菜をあくまで素材として使っているのです。働く主婦が増えたから惣菜や半調理品が売れているというのもウソです。
川東: そうなんですか!?
林: 惣菜の売り上げの半分は、午後4時には売れています。残りの半分がそれ以降の時間に売れる。ということは、惣菜を買っている人のすべてが働いているわけではないでしょう。それに、聞き取り調査をした結果では、働いている人ほど「家族に申し訳ないから」と料理をつくる傾向にあります。すると、惣菜を買っている人の多くは専業主婦、またはパートの仕事を持っている主婦であって、決してフルタイムの仕事を持っている主婦が惣菜を買っているのではないという実態が浮かび上がってくるのです。
川東: なるほど。
林: 要するに、そうした現状とは裏腹な販促を現在のスーパーが平気でやっているということです。そこが大きな問題です。スーパーはもっとマインドコントロールシステムをマスターしないといけません。一応メニュー訴求をやったりしていますが、本当に食生活に根ざして考えるとか、お客様のことを考えるとか、そういうことをしていません。
例えば、いちばんいい例が、パート店員にサンプル料理をつくらせて売っているということ。お客様は、パートごときに教えてほしくないと思いますよ。販促というのは、お客様の一歩前に出て「これがトレンドですよ」っていうのを見せなければいけません。あまり前に行き過ぎてもダメですが、少し前に出てピッタリ付いていなければダメ。後ろに付いたらおしまいなんです。パートさんにつくらせるというのは、お客様の後ろに付くことです。メニュー訴求をするなら、お客様が信頼している人が「これは手抜きしてもおいしいですよ、これがプロの手抜き料理ですよ」とやらなければ意味がありません。情報として価値ゼロです。今のスーパーは、トレンドとか、どうしたらお客様を喜ばせられるかということについて、まったく無知です。これでは、健康とか安心とか安全とか、何をやってもダメです。そこが、私はいちばん気になるのです。
私が携わってきた雑誌の世界では、内容次第でその雑誌が売れたり売れなかったりするわけですから、読者がいったい何をほしがっているのかを一生懸命に考えます。そうしなければ販売部数が落ち込んでしまいますから。それをやってきた目からすれば、流通現場の販促というのはまるでなっていないと言わざるを得ません。
川東: 中食も約6兆円まで伸びてきているようですが、HMRが言われ出して今年で3〜4年でしょうか。アメリカでは料理時間20分というところまで短縮されているようですが、日本の場合は40分ですね。
林: 日本のHMRが40分というのは、ごはんを炊く時間なんです。料理時間がどんどん縮まってきているのは事実ですが、日本はあくまでも"ごはんHMR"だし、日本人は世界でいちばん料理の上手な国民。HMRが進むには時間がかかるでしょうね。今の若い人が主婦になったら変わってくるかもしれません。アメリカほどになるにはあと10年ぐらいかかるでしょう。アメリカは本当に買ってきて並べるだけですよ。つくるのはドレッシングだけ。あとは野菜を盛り付けるだけ。盛り付けが料理なんです。
今アメリカではHMRは落ち込んで、プリペアードフードが増えています。日本のパック売りを見て「あっちのほうが儲かりそうだ」というわけで始まったんです。サラダバーが消えて、代わりにパックしたサラダを売るようになった。今はパック合戦です。
月城: アメリカのHMRは進化したと思います。ただ、これまで惣菜の部分でHMRをやっていましたが、今は肉の部分、魚の部分それぞれの中でHMRをやっています。つまり、それぞれ食の柱となる食材を中心に完結型のHMRをやっている。だから、すごくバラエティー豊かだし、食の提案のしかたが細分化されてきています。先ほど林先生がおっしゃったように、試食をやるにもこれまでは業者やパートに任せてきましたが、今はほとんど現場のプロがやっています。
林: やっぱり情報の発信者はプロでなければいけません。ただ、日本では原価率が高かったり、なかなかそれができにくい状況がありますから、日本は日本で独自の進み方をしていくべきだと思います。その意味でも「健康・安心・安全」をベースにしていかないと、2002年には生き残っていけないでしょうね。それと、スーパーマーケットは本当の販促を勉強しないといけません。
川東: 本当の販促というのは、例えばどういったものだとお考えですか。
林: 正しいことをお客様に教えるということ。それと、お客様がその気になるようにやるということです。例えば、ステー キ用の肉を一日に1500枚売るために、ステーキの焼き方教室をやります。「買ってください」とは言わないけれど、「忘れちゃうから今日中にやってください。教材は山ほどありますから」と言って。ステーキの焼き方は皆さんが本当に覚えたがっていることだから、とても喜んでくれます。相手が何を覚えたがっているか理解するということが重要です。教え方も、子供でもわかるぐらいのデジタル式の教え方にします。肉に穴を開けてフライパンに乗せてください。弱火にしてじっと見ていると、その穴に赤い肉汁が上がってきます。全部の穴に上がってきたらひっくり返してください、というふうに。目で見えることをデジタルで教えます。ただし、これを実践するためには、教えるほうもきちんと勉強しないといけませんね。
|
〈定番・トレンドで伸びている商品の特徴と傾向〉
さらに伸びる韓国・イタリア料理 |
川東: 国別料理のトレンドはどうですか。
月城: 来年が韓国料理のピークになるでしょう。今、タクアンが20万トンしか生産されていないのに対し、キムチは今年は30万トンの生産量、3万トンの輸入量が見込まれています。来年は国内生産と輸入をあわせて40万トンでしょうね。日本一の漬物は今、キムチになっています。韓国料理は今後、どんどん本物指向になっていくと思います。
あとはタイ料理。トムヤムクンなども不思議な味で、私もたまに食べたくなるようになってきました。アジアの料理はなかなか定着してきませんでしたが、今では各国料理のレストランも増えてきているので、そういう各国の料理に対する欲求も出てくるかもしれません。
林: 惣菜ではイタリア料理が伸びるでしょう。グラタン、パスタなど、イタリア料理は最大にマークされています。開発の余地ありです。
|
〈2001年の年末商戦のキーワード〉
年末の伸びが期待できる鍋物セット |
川東: 2001年の年末商戦については、どのようになるとお考えでしょうか。
堀内: 一言でスバッと言うのは難しいですが、今年の年末は"まだら模様"ではないかと思います。同じ鍋でも売れるものと売れないものがある。刺身でも、既存の刺身はさほど伸びなくても、女性に受けるサラダ風・オードブル風に使えるタイプのものが伸びて、既存のもののマイナス分を埋めています。実際、チャレンジしているところは売り上げがアップしています。もちろん、今年も柳の木の下に去年と同じドジョウがいるとは思いませんが。
林: クリスマス、おせちは、去年よりも価格ダウンする可能性が高いです。不況のときほど祭事をきちんとやる人が増えるものですが、ただしあまり豪華にはやらないんですね。去年より数は出るけれども、中身は縮みます。例えば、去年は2万5千円のおせちが300個売れたとすると、今年は350個売れるけれど単価は2万円とか、そういうことが起きてくるでしょう。旅行にしてもクリスマスにしても、その日一日だけ。参加型で、豪華絢爛にはしない。だから、よく考えて売るチャンスを逃さないようにしないと、取り返しのつかないことになります。ただ一つだけ非常に伸びているのがフライドチキン。これを売り損なったら売り上げがとれません。しかも、フライドチキンはクリスマス以外でも売れますから、これは惣菜では最重点商品です。
川東: 鍋の傾向はどうでしょう。キムチは多分、伸びるでしょうね。すき焼き、ちゃんこもイケると思いますが。
月城: ちゃんこはじわじわ来ています。つみれ、キムチ鍋、水餃子を惣菜の横に置くと、一緒によく売れました。充実した鍋を手間ひまかけずに、というところでしょうね。家庭で包丁を使わなくていいように。
堀内: 鍋は伸びていますね。鍋でいつも思うのは、小さい鍋ほどその鍋セットで完結できるような仕様が求められるということです。以前はむしろその逆に考えていたのですが、実際は大きいものにあとから追加するようにしてもいいのですが、小さいものは完結することが求められます。
|
〈2002年の成功のキーワード〉
"企画力"でお客様の一歩前に立つ"単品量販"を |
川東: 堀内先生が先ほど"単品量販"ということを、これからの成功のキーワードとして挙げておられましたが、これはどういうわけでそう思われるのですか。
堀内: お客様がどういう情報をほしいのかといった場合でも、それは情報が情報として単独であるのではなく、あくまでも商品とくっついて情報があるわけです。この商品はどういう食べ方をすればいいのかとか、ほしい情報というのはそうだと思います。それも"単品量販"ということに含まれると思います。以前の価格的な要素でがんがん売ろうという"単品量販"ではありませんが、しかしたくさん売るというのは商売の基本であって、そこにどういう情報を付加するか──つまりどういうPOPをつけるか、どういうサンプルをつけるか、どういうSKLをつくるか──といったことも含めて、もう一遍イチからやるときに来ているのではないかと思います。過去の"単品量販"を引きずると、なんとなくマイナスのイメージになってしまいますが、そうではなく。
月城: たくさん売るためにディスカウントするというのではなく。
堀内: それで結局もとがとれないとか、そういうイメージが過去の"単品量販"にはありますが、そうではない新しい"単品量販"が必要になってきているのではないでしょうか。
林: たしかにそれは正しいと思います。今、惣菜の世界で私は「"あるべき品揃え"をなくせ」と言っています。惣菜にはこういうメニューが必ずあるべき、という従来のやり方を忘れてやりなさいと。惣菜も街のレストランと同じで、その店ならではの得意メニューがあるわけで、実際に「ウチはこれがいちばん美味しい」とやれば売れるんです。その季節、TPOSに合ったものをドーンと単品大量販売しているわけです。これが当たるんですよ。この方法でコロッケが一日に2万個、年間を通して落ちずに売れています。ただ今までと違って、新しいメニューをひとつノミネートするのに血をしぼるような努力をしています。で、出して売れなかったら3日でやめる。その代わり、売れたら全店でドーッと売りつくす。だから"単品量販"で効率よく稼ぐというのではなく、お客様のマインドが何を求めているのか、それをキャッチしたうえでの"単品量販"なのです。これからは、そのキャッチ力の鋭い者が生き残れるということになると思います。
"単品量販"は間違いではありませんが、売る側の都合でやる"単品量販"はもうダメです。お客様の一歩前で興味をそそるキーワードがあるものでないと、"単品量販"はできません。結局は"企画力"が大切ということです。
月城: たしかに価格は下がってくるし、スーパーで求められる数字は厳しいですから、生産性を上げていこう改善していこうと思うと、"単品量販"をやらなければ数値が戻ってきません。そのときに、自分のためでなくお客様のために合う"単品量販"をやろうというわけですね。鮮魚業界でそういうものはありますか。
堀内 季節商材ですね。生カツオや蒸しタコなどです。それまでタコがスライスで売られていたときには刺身という用途でしか使われませんでしたが、ブツ切りにしたことでお客様のイメージが広がった、食べ方が変わったんですね。サラダとか、あるいはタコキムチなどです。タコキムチは、韓国メニューではすでに定番中の定番になっています。
林: "単品量販"で間違えてほしくないのは、お客様のニーズといったときに、ふつうニーズというのはお客様の背中に付くものなのです。それはつまり、過去のデータに基づくということです。でも、これからは過去のデータではなく、ニーズをお客様の前につくってあげなければいけないと思います。
川東: それをやるには、どうしたらいいのでしょうか。
林: なかなか難しいのですが、例えばネギチャーシューはそのひとつです。お父さんはラーメン屋でビールを飲むときに食べたことがあっても、家庭の中にはなかったものです。でも、それを買って家庭に持って帰って、こういう食べ方もあるねとサラダ感覚で食べてみたら「あら、おいしいじゃない」と、そこから始まっているんです。だから、データ万能の時代から"企画力"と"単品量販"の時代になったと思います。われわれが、これからの食事の世界をつくっていかなければいけないのです。
月城: これから、われわれは食材を安く提供していかなければいけません。そのためには"単品量販"が必要なわけですが、自分の戦略のためにやるのではいけない。ただ、単品の形が変わってきているんですね。肉だったら、家庭であらためて包丁を持たなくていいように加工するとか。それなら包丁もまな板も洗わなくてすみますから。クロスで売場を展開するときには、肉の場合は野菜を持ってくることが多いのですが、その野菜もカット野菜とか洗浄した野菜を使って、できるだけ包丁を使わなくてすむものをクロスで販売すれば、そのメニューは売れるというのは事実です。それは手間ひまををかけずにできるというのもありますが、やはり売場も変わってきているしお客様のニーズも変わってきているという気がします。私も、これから"単品量販"はいけるのではないかと思っています。
林:"単品量販"になると、今度は何が起こるか。タレとソースが、アメリカ式に家族の中でボトルキープになりますよ。家 族がそれぞれ自分の好みに合わせた銘柄のケチャップを持っているとか。そういう時代が、いずれ日本にも来るでしょうね。そうすると"単品量販"の意味が出てくるのです。これは、もうユニクロとまったく同じ発想です。型紙は同じ、色だけ違うという。ユニクロもある意味"単品量販"ですから。
堀内: 簡便商品についてですが、これは定着するのに時間がかかります。4〜5年前にHMRということで、ホイル焼きとかけっこうやっていましたが、結局我慢しきれなくて今は沈静化しています。これは素材感や"ライブ感"がうまく出していけなかった部分が大きいと思いますが、ただ全体の流れがそちらのほうに来ているのは間違いないと思います。そういった面でも単品でひとつひとつ定着させていくという努力が必要だと思います。鍋物セットをお年寄りが買うようになってきているのですから、もう一捻りすれば、まだそこにマーケットはあるのだと思います。
月城: 行動パターンをちゃんと分析したら、成功すると思います。例えば今、肉のコーナーであるのは、タマネギとか野菜を一品買って加えて酢豚をつくるというタイプの商品です。あれは、消費者が少しは自分で手を加えないとイヤだという、そこを突いてきたものだと思います。今、そういう食材が鮮魚などでも広がってきていると思います。あれは、いつ、どこで、だれが、どういうふうに使うかという行動パターンを分析してできたヒット商品だと思います。コンビニに売っているお酒のおつまみなんかも、昔に比べたら食べ切りサイズというのがたくさん出てきています。大きなほうが割安ではあるけれど、一人で食べるなら食べ切りサイズのほうがいい。それも行動パターンを分析して生まれたものですよね。われわれはイメージで商品をつくってしまうことが多いですが、そうした分析を行っていくことでまだまだ可能性はあるでしょうね。実際、野菜を一品入れるというのは成功事例になっているし、肉とクロスで売るなら徹底して包丁を使わなくていいようにするというのは、今伸びている部分です。
林: 酢豚の事例は、いわゆるマイナスワンクッキングシステムですね。そのおかげで今、中華の惣菜は全部アウトなんです。価格を下げても、それでも苦戦しています。惣菜業界の立場から言わせていただけば、マイナスワンをあまりやられると困るんです(笑)。でも、それはお客様の前に立った商品ですね。これから量販店は、お客様の前に立つ訓練をしないといけないでしょうね。
トレンドをつかまえるっていうのは、実はそんなに難しいことではないんですよ。コツをお教えしましょう。女性雑誌を毎月20種類ぐらい読んで、どんなメニューが載っているか表をつくります。それで、あるメニューが3誌、4誌と重なって紹介されていたら、それにトレンドが来ているなというのがわかるんです。
川東: そうしてトレンドを把握したうえで、お客様の前に立って提案をしていくということですね。それでは最後に、これから21世紀の食がどのように変化していくか、予測をお願いします。
林: 沖縄の食生活を見ていると、21世紀のこれから日本の食事がどうなっていくかがわかります。というのは、沖縄はお年寄りの比率が高いですから。サンエイさんなどは、大きい店舗がある一方で150坪の店舗もつくっています。なぜかというと、沖縄の特にお年寄りは自転車ではなく歩いて店に来るからです。そういうことも含め、沖縄は長寿でお年寄りが多いから、高齢化がますます進む日本の将来の姿がそこにあるわけです。
すると、惣菜はまだまだ伸びるということもわかります。アメリカのように、従来の惣菜の枠内にとどまらず、もっとカテゴリーを広げて伸びていきますから、これからは肉屋さんとの戦いになるでしょうね(笑)。今、惣菜は肉ベースのものが売れるようになってきています。
川東: 精肉業界はいかがですか。
月城: 一言では言えませんが、肉はこれから日本人の主食になっていくでしょうし、重要なカロリー源ですから、価格帯は安くなっていくでしょう。それだけに、安く売っても収益が悪化しないような構造改革をスーパーの中でやっていく必要があると思います。それと安く提供するということで、もう少し売場改善をして、SKUを売れるものに絞って、新しいカテゴリーとか新しいアイテムでマーケットアプローチをしていく。この二本立てですね。
全体について言えば、家庭でキャッチできる情報が変わってきています。高齢者も豊かで、団塊の世代にしても健康のことなど情報で武装して、モノの買い方が変わってくるでしょう。TPOに合わせて半額バーガーを買ったりする一方で、きちんとテーブルクッキングしようとか、こだわった食材のときにはこうしようとか、そうした幅広い使い分けをしてくるのではないかという気がします。
川東: 冷食も魚から肉に変わってきていますよね。
月城: 本当にそうなんです。肉は健康にいい、高齢者にもいいという啓蒙活動をもっともっとやっていかなくてはいけませんね。
川東: 鮮魚業界は、これからいかがですか。
堀内: やはりもう一度"単品量販"からスタートするしかないと思います。鮮魚は季節や旬によって商品が入れ替わることが今はハンデになっていますが、それを強みに変えて再構築を図っていかなければなりません。
川東: 旬の素材といえば、1に魚、2に野菜ですからね。
月城: 私も、来年"単品量販"はスーパーのキーワードになると思います。それができないところは経営効率が悪くて戦略的にダメでしょう。
堀内: 今、鮮魚業界は縮みに入っていますが、いろんな面でたくさん売るということに対する熱意が弱まっているように感じます。そこから抜け出すには、もう一度"単品量販"という切り口でいくしかないでしょう。その中で、旬・季節の商品や、商品の料理用途などを見直していくべきだと思います。
月城: 私が業界のセミナーをやると、皆さん元気になって帰っていきます。モチベーションって、ものすごく大事ですね。精肉業界でも特に若い人たちは、自分たちの仕事がキレる子供を減らすことにつながるとか、家庭内でのスキンシップを促したりするといった食の役割を忘れているから、非常に大事な仕事だということを教えるとモチベーションが上がりますね。「食研だより」でもそういう記事を書かせていただいたりしているので、それも精肉業界のモチベーションアップ、現在の好調な業績につながっているのかもしれません。
川東: 今日うかがってきたお話を総合すると、お客様の一歩前でニーズをつくる"単品量販"ということが、各業界の今後における大きなポイントのひとつになってきそうですね。
本日は貴重なお話をお聞かせいただき、ありがとうございました。
|
|