「牛の個体識別番号の表示」と「仕入れの記録」が義務化
株 月城流通研究所
月城 聡之
 
 「牛の個体識別のための情報の管理及び伝達に関する特別措置法」(通称 「牛肉トレイサビリティー法」)が、平成15年 6月に公布され、牛の管理者及びと畜段階について、平成15年12月1日から施行されました。1年の準備期間をおいて、平成16年12月 1日からは、牛肉の販売業者などを対象とする流通段階についても施行されます。
食肉小売店などでは、個体識別番号(またはロット番号)の表示と、帳簿の備え付けによる仕入れにかかる情報などの記録・保存が義務になります。

 「牛肉トレイサビリティー法」は、国産牛肉の消費者の信頼確保はかるために制定されました。消費者の食品に対する安全への意識は高まり、提供する生産者、製造者、販売業者にもこれまで以上の信頼が求められているだけに、これを国産牛肉販促の手法の一つとして12月からは活用したい。

 「牛肉トレイサビリィテ―」をしっかり店舗でおこなうことにより、消費者への優位性のアピールができ、情報管理の充実化で産直イメージを強化でき、ボリュームゾーンの輸入牛肉の販売にも有利にもなるからです。


趣旨:BSEの蔓延防止措置の的確な実施や牛肉の安全性に対する信頼度確保を高めるため、牛を個体識別番号により一元管理するとともに、生産から流通・消費の各段階において当該個体識別番号を正確に伝達するための制度を確立する。

「牛肉のトレイサビリティーとは?」
国内で生まれたすべての牛には、10桁の個体識別番号が印字された耳標が装着されます。
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酪農家や肉用牛農家など牛の管理者及びと畜による届出に基づき、個体識別番号によって、その牛の性別や種別(黒毛和牛など)に加え、出生から、肉用牛であれば肥育を経てと畜・解体処理まで、乳用牛であれば生乳生産を経て廃用・とさつ、までの飼養地などがデーターベースに記録される。(平成15年12月1日:法施行)
@個体識別番号
A生年月日
B雌雄の別
C母牛の個体識別番号
D出生からと畜間での間の飼養地及び飼養者
E転出・転入年月日
Fと畜年月日又は死亡年月日
Gその他(牛の種別、と畜場の所在地、輸入牛の輸入年月日
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その牛がと殺され牛肉となってからは、枝肉・部分肉・精肉と加工され流通していく過程で、取引にかかわる販売業者などにより個体識別番号が表示され、仕入れの相手先などが帳簿に記録・保存されます。(平成12年12月1日:法施行)
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これにより、国産牛肉については牛の出生から消費者に供給されるまでの間のの追跡と、販売されている精肉などからは牛の出生までの遡及、すなわち生産流通履歴の把握(牛肉トレイサビリティー)が可能となります。
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消費者は、購入した牛肉などに表示されている個体識別番号により、インターネットを通じて牛の出生からとさつまでの生産履歴を調べることができます。

注:生態で輸入された牛については、国内に輸入された時点で個体識別番号が付けられ、制度の対象となる。

「制度の対象となる事業者とは?」
管理者 約13万 {出生頭数:年間約140万  飼養頭数:約450万}
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とさつ者  約170  {とさつ頭数:年間約130万頭}
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販売者   約5万    {食肉卸売業者:約1万}  
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{食肉小売店:約4万   特定料理販売供給者:約2万}

「特定料理提供者とは?」
「販売業者」とは、牛肉の販売の事業をおこなう者。「特定料理」とは、「焼肉・ステーキ・シャブシャブ・すき焼き」の提供をおこなうもの。「特定牛肉料理提供者」とは、料理全体(酒類を除く)の2分の一以上、または売上(酒類を除く)の2分の一以上を特定料理が占めている業者、もしくは食材(酒類を除く)の仕入れ金額の2分の1以上を牛肉(内臓は含まない)が占めている業者。

「牛の個体識別番号の表示方法」
 個体識別番号の表示については 「特定牛肉を販売するときは、1つの特定牛肉ごとに「容器」・「包装」・「店舗の見やすい場所」のいずれかに、その特定牛肉にかかる牛の個体識別番号またはロット番号を明瞭に表示する」ことになっている。(農水省・安全局衛生管理課)

 従って、「パック肉」での場合、一つ一つの「パック」または同一の商品のパックを盛った「トレイ」ごとの牛肉が一つの特定牛肉で、パックごと、或いは、同一商品を他のパック肉と区分して配置した「販売区画」がひとつの特定牛肉になります。

 つまり、パックごとに個体識別番号が貼っていなくても、他の個体識別の番号の牛肉と混ざらなければ「販売区分」ごとに表示しても良いということです。

表示の代表的な方法として


1.「ラベルインでの表示」
計量ラベルプリンターを使って、そのラベルに個体識別番号を印刷してしまいます。
この方法がSMでは一般的に使われることになりますが、10桁の打ち込みを手で行ったり、「スキャナー」で行なったりする方法がありますが、器械の導入・交換なども伴う場合があり、費用が少し掛かります。また、ラベルインでの表示なので、10桁数字があまり大きく書き込めなく。数字が小さいので、消費者にもう少しインパクトを与えたいというときは、売り場に個体番号の問い合わせ先のHPアドレスや、実際の履歴のプリントアウトなどで演出すると、効果的になります。 イオンなどでは、売り場でネット検索が出来るようにしていますが、これは効果的ですが費用がかなり掛かります。

1−1.個体番号をリレー式のスキャナーで読み取り番号の間違いが無いようにする。
1−2.ラベルインで10桁数字を表示。

「継承(リレー)ラベルとは?」
 枝肉やブロックを分割した場合に入荷時点で貼り付けられている物流ラベル(UCC/EAN128コード入り)をスキャナーで読み取り、個体識別情報を抽出した上で個体識別番号を複写したものをそれぞれの肉(部分肉、部位別もしくは加工上発生した「あまり肉」)に継承していくものです。

 このラベルを計量器に接続されたスキャナーで読み取り、計量ラベル(卸売り業者の段階では小売店向けへの物流ラベルとなる)に個体識別番号を印字させるシステムの周辺機器として需要があります。

注:継承(リレー)ラベルは個体識別情報の入ったUCC/EAN128 コード入り物流ラベルは入荷時点で貼り付けられている事が大前提になります。



2.「ハンドラベラーでの表示」
 10桁の数字を打ち込めるハンドラベラーがありますので、このラベルに検索のためのアドレスも印刷して販促プロモーションのSPシールの一環として使用する方法があります。

 これだと、何種類もの個体番号を打ちかえるときは、手で数字を回転させなければならないので手間は掛かりますが、比較的安価で対応できます。また、1枚多く肉のパックにラベルを貼りますので表示をしているということが消費者に伝わりやすいと思われます。ラベルにも工夫で情報を載せることが出来ます。

2−1.ハンドラベラーでの10桁数字の印字。ラベルはイロイロ作成できる。
2−2.生産履歴の問い合わせ方法などもPOPで合わせて告知する。


2−3 セールスプロモーション用のシールとしても使え、印象度は高くなる。
2−4.ラベルには銘柄や産地・生産者なども書き込める。


3.「SPシールでの表示」
パソコンでA-4サイズの1シート64枚や、96枚に分割したシールがありますが、それにパソコンで打ち込んで貼る方法もあります。また、「バーコードプリンター」などでも、4行とか3行の書き込みが出来るので、10桁番号以外の ブランド名・産地(或いは生産者)・問い合わせ先のHPアドレスなど、いろいろな情報も添付できる。これだと、最初に牛肉半頭セットだと、600枚から800枚のラベルを最初にプリントアウトして対応することになります。専用の「バーコードプリンター」のようなものを使うと費用は1と2の間くらいになります。シールを1枚1枚剥がして貼ることが少し手間が掛かりますが、文字を大きくしたり出来ますので、アピール度は、1と2よりはインパクトがあります。

3−1.バーコードプリンターを応用したSPシールでの10桁番号表示。
3−2.産地や生産者も書き込めるので余分なシールを貼らなくとも良い。

「投げ込みラベルとは?」
「卸売業者」が小売業者へ商品納入時に「部位」ごとの「個体識別番号表示ラベル」や「継承(リレー)ラベル」を「複数舞」作成し、配布するものです。 (小売店の要請による)


4.「店頭表示ボードのロット番号の記号(色分け)をする」
 個体識別番号を「表示ボード」を使って、番号ごとに色を指定して、色分けをしたその指定された色の区分の中でパック肉を配置して、他の番号の牛肉と混ざらないように販売する方法。

 これは、対面販売などには有効な販売方法ですが、パックだと他の色の区分と混ざらないように絶えず売り場を注意する必要があります。「表示ボード」は食肉の組合に加盟していれば簡単に手に入れられます。

 これだと、ランニングコストが殆んど掛かりません。しかし、部分肉を多く使用するときは個体番号が違う部分肉だと売り場に表示できる数に限りがあるので、セット販売が主力の店や対面を導入している売り場に限られます。

4−1.色別でロットで表示する方法。このボードはキット一式で3万位。
4−2.トレイが色分けした区分から出た場合は元に戻すなど少し注意が必要。

「ロット番号とは?」
 複数の個体識別番号を一括りで管理する場合の番号をいい個体識別番号に代えて表示することができる。ただし、ロット番号を作成・表示したものはそれを構成する個体識別番号について応答義務を負う。まお、ロット番号の作成は1つのロット番号について50頭以下の場合に限られる。

 農水省の立ち入り検査時にこれらの義務を果たしていない店舗には30万絵にかの罰金を設けている。


5.「お客様「安心カード」を発行して配布する」
 対面販売などの場合、買い上げていただいた商品に個体識別番号を貼り付けられない場合は、「安心カード」として、販売した牛肉の個体識別番号を印刷したカードを配布する方法もある。

 また、パックに貼り付けられたラベルに個体識別番号が印字されている場合、お客様がその番号を元にインターネットで検索する場合、パックラベルにドリップが付いていたり、汚れていたりする場合が多いので、お客様に不快感を与えますし、パソコンを操作するにもふき取りなどしなくてはいけません。

 そこで、パックに付けられた「ラベル+販売日に取り扱っている個体識別番号を別途カードに印刷しお客様に自由に持ち帰ってもらうカード」を配布することも積極的な表示に対する取り組み姿勢をアピールでき、カードと言う表示方法を使うことで、10桁番号の認識性を向上させることが出来ます。

5−1.「お役様安心カード゙」(仮称)などを添付しより取り合う買いやすい形で提供する。
5−2.積極的に取り組んでいる姿勢をアピールできる

 新しい器械などの導入費用が無い場合は「10桁数字をパックに書き込む」方法だけでも農水省は構わない、と言っています。

 販売形態に合わせて、また、導入予算に合わせて多くの対応方法があります。
しかし、せっかく導入するのですから、大きな販促手段として欲しいものです。

「食肉小売店がおこなうこと」
 食肉専門店、チェーンストアーの店舗、食品スーパーなど(「食肉小売店」といいます)が行なうこととして法令に規定されているのは次の2点です。

・ 「個体識別番号の表示」 1つの特定牛肉ごとに「容器」・「包装」・「店舗の見やすい場所」のいずれかに、その特定牛に国かかる牛の個体識別番号またはロット番号を明瞭に表示する。

・ 「帳簿の備え付け(仕入れの記録とその保存)」  帳簿を備え付け、仕入れた特定牛肉ごとに、
  ・仕入れた特定牛肉の個体番号またはロット番号
  ・仕入れの年月日
  ・仕入れの相手先(氏名または名称及び住所)
  ・仕入れた重量
を記載・記録し、保存する。帳簿は1年ごとに閉鎖し、閉鎖後2年間保存する。
帳簿は紙ではなく、磁気ディスクに記録保存しても構いません。(いずれにしても紛失しないこと)

 もちろん、パソコンで作成しても構わない

 消費者以外に販売業者や飲食店等に販売している場合は、販売業者や飲食店について帳簿を備え付け、記録し保存する必要があります。記録が必要な事項は以下の4点です。
  ・販売した特定牛肉の個体識別番号又は、ロット番号。
  ・販売した年月日
  ・販売した相手先(氏名又は名称及び住所)
  ・販売した重量

「特定牛肉」の範囲
 食用に供される牛の肉であって、牛個体識別台帳に記録されている牛から得られたものをいう。
ただし、以下の牛肉は規則により対象外とする。

   
牛肉で
・肉ひき機でひいたもの。(第2号) ひき肉、合いびき肉
・牛肉の整形に伴い副次的に得られたもの(第3号) 小間、くず肉
小間切(切り落とし)、主に小売用
・「特定牛肉」 単に切断、薄切り等にしたもの
単に冷蔵及び冷凍したもの
牛ロースと牛カルビのセット(同種混合のもの)

・牛肉を原料又は材料として製造し、加工し、又は調理したもの。
製造したもの ハムソーセージ、ベーコンその他これらに関するもの
加工したもの タレ付込みの牛カルビ生鮮食品であって異種混合のもの
牛豚肉焼肉セット
ハンバーグ用パティ
合いびき肉
野菜と一緒に盛り合せた物
調理したもの 販売の用に供するために牛肉を調理したもの
(店頭で販売する「持ち帰り用網焼きステーキ」)