消費者に理解を「流通している食肉はすべて安全」
―日本の食肉には不正が出来ないトレイサビリティー法・食品衛生法・JAS等による管理体制の「仕組み」がある―
株 月城流通研究所
月城 聡之

日本の昨年のトウモロコシの輸入は約1650万トン。昨年の食用の「米」は約800万トンで、日本は「米」から「肉」の国へと、「食肉」が主要食物として重要視され、主食としての安全性に関心が大きくなっている。
食肉業界は、生産における牛のBSE・口蹄疫、豚の疾病、鳥インフルエンザの発生等、流通においては、差額関税制度の悪用、国産牛肉買い上げによる不正受給、さまざまな食肉偽装・表示問題、などが発生し業界で不正が暗躍しているような印象を過去消費者に持たせたことは非常に残念である。
日本の食肉産業はその生い立ちから多くの問題を抱えてはいたが、「生産・処理・流通(販売)」含めて問題が起らないように事前に対処し、起これば繰り返さない対策が講じられ、改善を繰り返し、牛1頭1頭をトレイスバックできる「牛肉トレイサビリティー法」の実施や、透明性の高い正確な「食肉表示」など、世界でも類を見ない仕組みの構築が完成されたばかりでの、今回のミートホープ社による偽装の発覚問題であった。
 世界を席巻したBSEの発生件数も1992年に英国だけで37280頭だったものが2007年7月20日現在英国内で24頭、世界5カ国で24頭の発生まで減少し「清浄化」されるまで今一歩というところだ。(日本のBSEは13年9月10日の発見以来33頭発生)
「鳥インフルエンザ」も世界的に沈静化の方向にあり、「疾病」との戦いの克服ももう一歩というところまで来ており、消費者の安全性に対する過剰反応は相変わらず高いものがあるが、流通している食肉は安全であるということを理解してもらいたいと思います。

◆生産者とトレイサビリティー
 国内の生産者は、次々に発生する世界的な「動物疾病」と、次々に起こる流通での「風評」に悩まされ続けてきました。
 「疾病対策」で使用される薬剤、ホルモン剤・抗生物質などは法律で決められており、認可を受けたものしか使えません。海外での生産で日本向けに輸出される食肉にも日本と同じ薬剤の使用が義務付けられており(ポジティブリスト)、認可されていないものが発見された場合は即座に輸入が停止され、国内に流通されたものも回収されます。
日本でのBSE発生以降「牛肉トレイサビリティー法」が制定され、牛の生産から流通まで管理され、「10桁の個体識別番号」によって、誰でもが牛の履歴をインターネットで検索できるようになりました。これは世界でも類を見ない仕組みで、これにより、和牛などに多かった偽装表示を無くすことが出来ました。違反には大きな罰則が科せられ、違反が公表されるだけに偽装は企業存続に大きく関わることになったからです。
トレイサビリティーは生産者の方が消費者よりも大きな関心を持って進めていると思われます。
トレイサビリティーは牛ばかりでなく豚や鶏にも取り入れられています。
また、生産者は、生育段階別の給仕飼料、治療歴、投与した薬剤、などを個体や生産ロットで記録し、履歴を公表できるように取り組んでいます。
トレサビリティーは、trace(追跡)とability(可能)を合わせた造語です。直訳すると追跡できる可能性です。
このシステムを取り入れることによって、消費者は、どれが安全でどれが危険かを調べることができ、生産から、流通、販売まで、詳しい履歴が分かるようになり安心して買い求めることができるので、生産者は輸入食肉との差別化にもなる販促ツールとしても積極的に取り組んでいます。
 生産者は、「生産情報公表JAS」などにも積極的にも取り組み、情報としてトレイスバックできる仕組みを作っています。
BSEは、2001年10月の飼料規制以後の牛には発生していません。2001年10月以前の牛に発生していたるだけです。
日本でもこれからBSEは確認されるでしょうが、
これは、@飼料規制
    ASRM(特定危険部位)の除去
    B全頭検査
による対策が功を奏しBSEは人が作りだした疾病ですから、生産者と食肉業界が決まりを順守し克服できたのです。2001年10月以前の牛は、これから10年位は存在しBSEは発生しますが、殆ど克服できたと認識してもよいと思います。
生産情報公表JASマーク
生産情報公表JAS規格により定められた方法により給餌情報や動物用医薬品の投与情報が公表されている牛肉および豚肉に付けられる

生産情報公表牛肉
生産情報公表豚肉



◆牛の個体識別のための情報の管理及び伝達に関する特別措置法
通称「牛肉トレイサビリティー法」が、平成15年 6月に公布され、牛の管理者及びと畜段階について、平成15年12月1日から施行されました。1年の準備期間をおいて、平成16年12月 1日からは、牛肉の販売業者などを対象とする流通段階についても施行されました。これにより、SM・食肉小売店などでは、個体識別番号(またはロット番号)の表示と、帳簿の備え付けによる仕入れにかかる情報などの記録・保存が義務になりました。
法律によって義務付けられ、実施されるトレイサビリティー制度の内容は
[1]全ての牛に対して、出生と同時に、1頭ごとに、生涯唯一の個体識別番号(10桁の数字)を印字した耳標を装着する。
[2]牛の出生からと殺又は死亡までの間の管理者や飼養施設の異動等の記録をする。
[3]と殺された牛が、牛肉として消費者に販売又は提供されるまでの間において、牛肉に付けられた個体識別番号の伝達と流通業者による売買等の記録をする。
[4]牛肉を販売したり、牛肉を主体とした料理(焼肉、しゃぶしゃぶ、ステーキなど)を提供する場合には、牛の個体識別番号を表示します。
[5]これによって、消費者は牛の個体識別番号を頼りに牛の出生までの履歴を追跡することが可能となります。
 最近では、スーパーなどの店頭で、売られている牛の証明書や、トレイサビリティーの履歴が見ることが出来る所が増えています。
販売者は、消費者に商品の安全性をアピールする事が出来る効果もありますので、トレサビリティーを積極的に活用する傾向が出てきました。
国内で生まれたすべての牛には、10桁の個体識別番号が印字された耳標が装着されます。
10桁個体識別番号に含まれている情報
  1. 体識別番号
  2. 年月日
  3. 雄の別
  4. 牛の個体識別番号
  5. 生からと畜間での間の飼養地及び飼養者
  6. 出・転入年月日
  7. 畜年月日又は死亡年月日の他(牛の種別、と畜場の所在地、輸入牛の輸入年月日
◆屠畜場での検査と鶏肉の加工処理
「屠畜」は獣医師の資格を持った都道府県等の職員で、知事によって任命された屠畜検査員によって検査されています。「屠畜場法」で検査の対象となっているのは、「牛、馬、豚、めん羊、山羊」の5種類の家畜です。
牛は個体識別番号が無いものは屠畜することは法律でできません。
 「食鳥(鶏、あひる、七面鳥)」については、「食鳥処理の事業の規制及び食鳥検査に関する法律」に基づいて食鳥処理場で処理されており、獣医師の資格を持った食鳥検査員によって検査されています
生体で「屠畜」のために処理場に運ばれてきたものは、「屠畜」まで、健康であるものに限られ、病気のものは処理される前に除外されます。従って、病畜や死亡したものが食用に回ることはありません。
屠畜したものは、内臓も含めて食用に回るものはすべての個体は検査員によって検査され、「合格」したものだけが流通に回され、検査員によって不適切と判断されたものはすべて廃棄されます。 
屠場でも牛は内臓含めて個体管理、豚はロット管理がされています。
枝肉には屠畜検査に合格すると検印が押されます。この印に使われるインクは、調整方法が定められていて、食用赤色106号、青色1号、エタノールが主体の安全なものが使用されています。通常は、部分肉に整形する際に、これらのインクが押されたところは取り除かれますが、残っていても安全性に問題はありません
 屠畜された枝肉は屠場内の冷蔵庫で肉中温度が零度になるまで冷やされてから移動します(冷と体流通)ので、バクテリアなどが増殖しないように温度管理を徹底しています。

2−1.東京食肉市場(芝浦)では、牛は1頭1頭セリにかけられる。生産者やSMの担当者が各地の枝肉を比較し、検討するための見学も多くなった。


◆日本の食肉表示には多くの情報がある
現行のJAS法では生鮮食品と加工食品の「品質表示基準」が定められ、生鮮食品は「名称と原産地」加工食品は「名称・原材料名・消費期限または賞味期限、保存方法、製造者名(輸入品はさらに原産国名)」の表示を義務付けています。
店頭に並べられている商品には多くの情報が消費者に解りやすいように表示され、その情報に不正がないかは、
保健所に配置されている「食品衛生監視員」が立ち入り表示が適正にされているかどうかを調査します。
もし表示違反があれば、その原因について調査をするとともに、適正な表示に改められるまで販売を中止させます。
表示は、消費者が食品を購入するとき、正しく食品の内容を理解し、選択したり、適正に使用したりするうえでの重要な情報源となっています。万が一事故が生じた場合には、その責任の追及や製品回収等の行政措置を迅速かつ的確に行うための手がかりになります。こうしたことから、表示そのものが販売促進の大きなツールとして捉え、積極的に取り組む方が良いと思われます。
牛・豚・鶏肉、表示のポイント
食品衛生法、JAS法等の規定を盛り込んで「食肉の表示に関する公正競争規約」に総合的にまとめられています。
1、対面販売の表示
  1. 食肉の種類・部位、用途など
  2. 原産地(国産品ならば「国産」、ただし都道府県名やその他一般に知られた地名でも可能です。
    輸入品は「原産国名」を表示します。)
  3. 100g当たりの単価
  4. 冷凍の場合はその表示
2、事前包装された食肉の表示
  1. 食肉の種類・部位・用途など
  2. 原産地
  3. 冷凍の場合はその表示
  4. 100g当たりの単価及び販売価格
  5. 量目(内容量)
  6. 消費期限及び保存方法
  7. 加工(包装)所の所在地・加工者の氏名または名称
●原産地表示について
食肉の原産地は、原産国名を記載することになっています。したがって、国産品は国産である旨を表示すればよいことになります。
ただし、主たる飼養地が属する都道府県名、市町村名その他一般的に知られている地名を原産地として記載することができます。
●「黒豚」の表示
バークシャー種どおしを交配させた純系のみが表示できます。
●「和牛」の表示
和牛と表示できるのは「食肉の表示に関する公正競争規約」に基づき、「黒毛和種」「褐色和種」「日本短角種」「無角和種」と
「この4品種間の交配による交雑種」「4品種間の交雑と4品種との交配による交雑種」の場合だけです。
これ以外の品種の牛の肉を「和牛」と表示すると不当表示に該当します。
●牛の個体識別番号
国内で屠畜された牛肉(内臓や舌、ひき肉、こま切れを除く)は、牛肉トレーサビリティ法に基づく個体識別番号
(またはロット番号)が表示されます。個体識別番号により、生産履歴を調べることができます。



2−2.POP,シール、ラベルなどで正確で解りやすい表示をすること自体が販売促進のツールになってきている
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