SAMURAI バイヤー列伝

日々の業務の見直し

まず日々の業務の見直しをしてもらいたいと思う。
バイヤーは精肉に関するすべてのことを把握している必要があるので、「市場動向、現場、仕入、販売計画、係数管理(売上、利益、在庫など進捗管理)」を行なうことが、バイイングするための主な業務になる。

【市場動向】
牛豚鶏の相場は毎日の新聞から読み取る。
バイヤーであれば、毎日新聞をチェックする習慣がついているはずであるので、格別難しい問題ではない。
できれば、エクセルなどに自分で毎日チェックしてグラフ化するなどできれば、毎年の相場の動きや、市場相場の動きを読み取ることが出来る。
基本的には自社で扱っているグレードのものをチェックする。たとえば、「和牛A3、交雑B2、豚上、東京鶏モモムネ」などが第一弾である。
輸入肉を扱う場合は輸入関連の相場を見ることも重要であるが、より先を見越した相場を考えるのであれば、トウモロコシや大豆などの穀物価格も重要な役割を果たす。穀物価格が上がれば、先々で家畜の飼料価格が上がるので、結果的に畜肉の相場が上がることになる。そこまで、チェックする余裕が出れば、2、3か月後のバイイングに役立つ。

グラフ1:牛肉の相場推移グラフをみれば相場の大きな流れが見える

【現場】
常に問題と結果は「現場」(売り場)にある。
「売れ筋(売れているもの)、死に筋(売れていないもの)」は、今の現場から読み取ることが出来る。POSデータから読み取ることも重要であるが、なぜその商品が売れているのか、売れていないのかは、現場を見なければわからない。そのために店舗巡回をするのである。
売れていない場合は、現場の責任者の主任と共に、なぜその商品が動いていないのか、いるのか、の情報は吸い上げることが重要である。
売れなくなっていったもの、売れるようになったものを見れば、今後売れるであろう商品を考えることが出来る。「肉惣菜」や、「肉加工品」がどんどん売れるようになっているのであれば、その方向へ拡販することである。世界的に畜産物の取り合いが始まっており、それが世界的に畜産物価格を押し上げている現在、精肉の提供方法も、大きく変化せざるを得ない状況が出てくるのである。
また、その地域に見合った棚割りが出来ているのかというのも現場では重要な要素で、カテゴリ別に、棚割りごとにマネジメントが出来ているのかもチェックする必要がある。

【仕入】
バイヤーのもっとも重要な仕事の一つが商品調達である。
仕入れ価格というよりも、競合店といかに差別化した商品を、魅力的な価格で提供できるかということである。
魅力的な価格=安い価格、ばかりではない。
ルイ・ヴィトンは高くても購入するのは、それだけの価値と魅力があるからその対価として高い金額を払って購入するのである。
競争力のある商品を作ることが重要な課題であり、日常買いする商品を売場に提案する必要がある。
単品商品を安く売るには、値入ミックスをして、総合的に利益が出るようなシステムにする必要がある。基本的には、仕入価格はどの企業も大きくは変わらない。値引き交渉も必要であるが限度がある。そこで利益が出るように儲けが出る商品と、出ない商品をうまく組み合わせて、利益を出すように工夫するのがバイヤーの仕事である。
そのために、仕入先を探すことも重要な仕事となる。全年と同じ商品、同じ仕入れ先だけでは有利に戦えないからだ。


【販売計画】
チラシや特売計画はもちろんのこと、「52週の販促計画」を立てることは、バイヤーの重要な仕事である。
中小企業になればなるほど、計画がずさんなため、毎週のように同じアイテムが特売になっている。
ここで、注意しなければならないのは、割引販売の表示基準を守っているかどうかである。あまり、量販店では気にせずチーフの裁量で特売をしている場合が多いが、実は食肉公正競争規約第5条に違反している場合が多い。
通常価格の基準は次のように定められている。『値引販売の表示をしようとする時点からさかのぼる8週間において、過半を占める期間に販売されていた価格』(肉の表示ハンドブック参照)であり、毎日特売価格で販売されていれば、不当表示に該当し罰せられることになる。こういった知識もバイヤーは持っておかなくてはならない。
合わせて、食肉の表示や、賞味期限等、毎年のように基準が変化しているので、適正な「表示」になって居るかをチェックする必要もある。
上記のようなトラブルを避けるためにも、「四半期計画、月間販促計画、週間販促計画」など計画的に特売や売場作りをすることが必要となる。
これは大手企業になればなるほど先の計画を建てており、早いバイヤーは半年以上先の計画を前もって建てている。商品手配を他社より半年先に行うことで、欠品を防ぐことが可能となり、足りなければ他社が発注するタイミングで修正する程度に収まるわけである。
中小であっても、たたき台になる計画があれば、それをもとに修正していけるので、まずは書面に落とし込んで計画を判断できる材料を作らなくてはならない。


【計数管理】
係数管理といえば売上と粗利益だけチェックしておけばOKと思っているようではチーフレベルと同じである。各店の「在庫・在庫回転数、ロス、損益分岐点、生産性(人時売上・人時利益)」を把握したうえでチーフと会話する必要がある。なぜ、在庫が多いのか、回転していないのか、ロスリーダーがどのアイテムでその理由がなぜなのかを現場で聞くのである。
それを知ったうえで、対策と次に手配する商品をどうすべきかを一緒に考えるのである。POSから得られるデータを使ってABC分析を行い、販売数値を検証してアイテムの絞り込みを行うのも、売れた数字を使ったテクニックである。
バイヤーが独断と偏見で投入した商品が売れないのはチーフの責任ではなくバイヤーの責任である!
こうした、現場やメーカーとの密な話を通して実務経験値が上がっていくのである。自分の経験のみで、売れないのを現場のせいにするのはお門違いで、自分の経験はすでに過去のもので、現場は日々変化し、バイヤーが現場の責任者であった時代より、現状の方がキビい時代という事を認識しておかなくてはならない。
バイヤーが現場で行っていた管理と、変辞典での現場での管理は業務的に4倍くらい多くなっているのではないかと思われる。現状の現場は、4倍、自分が現場の時よりも事務の負荷が大きいと思えば、現場に取って管理しやすい形態を生み出していくのもバイヤーの大きな役割である。

問題は本社ではなく現場で起こっている!

伝票や発注関連のトラブルでない限り問題は現場で起こっている。
今の現場を知っているであろうか。知ったつもりになってはいないだろうか。これから売れる商品も、売れていない商品も、商品化すらほとんどされずに在庫が滞納している商品も現場に行かなくてはわからない。在庫金額が多少増えた程度では、誰も気が付かないのである。
特に、大きな店舗ではなく、小型店中型店で売れていない店舗では、隠れた問題が山積みになっていることが多い!さらに、本社から遠い店舗になればなるほど危ない山をわたっている。
≪どんどん売れなくなった豚バラ≫
ある店舗で、商品化があまり美しく出来ないチーフが、国産豚バラが高いから売れないと思い込み、デンマーク産豚バラ(解凍)をチーフが勝手に納品し国産豚バラの代わりに安く売ったのである。
しかし、豚バラからドリップはたくさん出るとのクレームで問題が発覚。ジャンコードは国産豚バラのものを使用し品名を変えていたため、POSでは国産豚バラが売れたことになっていたのである。結果的に価格ではなく商品化が単に汚かっただけだったのである。
本部にいるだけでは、POSデータは確認できても、なぜ売れないのか、何が問題なのかは発覚することはない。まして、怒られることを嫌がるチーフは見えないところで、チーフなりに何とかしようとするのである。
常に現場意識を持って、現場を見ていればこのようなこともなかったと思う。しかし、山積みになった仕事を本社だけでこなすと、こういう問題も発生してしまうのである。
この問題は、チーフとの関係が出来ていなかったこと、店舗巡回を怠っていたこと、メーカーにもチーフの裁量で新規アイテムを納品してはいけないと徹底できていなかったことなど、多くの問題が浮き彫りになった事例である。

現場に見合った計画と売場作り

チーフの経験やエリアマネージャーの経験を経てバイヤーになっても、一人の力では精肉バイヤーとして力を発揮することはできない。
精肉をどう変えていきたいか、5年後10年後の目標を明確にして、チーフたちと目標を共有することでより強固な精肉軍団を作り上げていくことが重要である。
また、過去の経験ではなく、“今”は今日の現場が作っているので、常にゼロベースで商品や売場を考えていくことがバイヤーに求められることである。
ゼロベースで考えることで、マンネリを打破することにもつながり、現状の問題意識にも注意を払うことが出来るようになるのである。
今の現場感を持ちつつ、未来を予測し販促計画を作ることが、競合店とは違った売場作りとなり、ブルーオーシャンな売場をつくることになる。そのために、トレンドを抑えることが重要となるわけである。
52週MD計画を作ることで、大きな流れを作り、季節の流れによる売場変化を考えることが出来る。それをさらに4つの季節に分割した13週MDがある。春夏秋冬に分割され、春の売場作り、夏の売場作りなど季節ごとの販促を行う。それを、月間、週間へと落とし込み、どの平台でどのアイテムの特売を打つかなど、具体的な内容を作っていくのである。

計画を作ったうえで、「棚割り」に落とし込んでいく。
「棚割り」を作る上で、「商品ポジション」を考える。
「商品ポジション」は商圏内の自店のポジショニングから得られる。
商品が安いのか高いのか、品揃えが多いのか少ないのか、またグレードがいいのか量販アイテムが多いのかなどもポイントとなる。
「商品ポジショニング」を研究したうえで商品アイテムを決め、仕入を行うのである。そのため、本当は競合店とレッドオーシャンで戦うという現象が起こっているということ自体バイヤーが機能していないこと他ならないのである。

自社のポジションマップを作成すると競合店とカニばらないポジションを見つけることが可能となる

棚割りを作成し、一定期間(1週間、1か月)で検証を行う。
数日販売して売れないから、ダメというのではなく、売る努力をしっかりと行ってから、売れなければ、何故売れなかったのかを検証するのである。「PDCAサイクル」を行うことにより、理論的に商品を売り込んで次回の販売につなげていく。

売れるアイテム作りと戦闘アイテム

売れるアイテム作りと戦闘アイテム
現在のバイヤーの仕事も、現場主任の仕事同様に、以前と比べて、増えているのも事実である。
そのために、提案などは、メーカー任せになっているバイヤーが増えている。
提案はメーカー任せで、納品価格は下げないと他社から購入すると脅して価格を下げさせる。
こんな企業が増えているのは、きわめて残念なことである。
提案は考えるから商品を手配してほしいというのであれば、理屈は通るのであるが、メーカーに提案をくれ、値段は下げろというのは、バイヤーの仕事を放棄しているとしか言いようがない。
メーカーが持ってくる提案も熟考されており、他社での売れた事例など使えるものもたくさんある。
しかし、実際店別のPOSデータを見て提案した売り込みではないのがほとんどであり、環境も違うので、他社で売れた提案でも自店で売れるとは限らない。本当に自社の顧客が望んでいるもの、ニーズをとらえた商品が展開されているのかは、やはりバイヤーが真剣に考えなければならない。それには、売場をしっかりと観察することが第一で、ニーズをとらえた商品をお客様へ魅力的な価格で提供する必要がある。

たとえば、ここ最近関東ではステーキの販売量が増えている。これに気が付いているバイヤーは、即座にステーキの売場を拡大し、アイテム数を増やした。定番のサーロインステーキやヒレステーキだけでなく、「みすじステーキ」や「シンシンステーキ」など希少部位の提案、オイルステーキなどの味付け商材も品揃えし売れ行きを随時チェックしている。少し売っただけでは結果は出ない。少なくても同じやり方で1か月以上は経過観察しなくては、力がある商品なのか、売っている場所が単に悪くて売れていないのか検証もできないからである。
売れるアイテムは、簡単に作れるわけではない。
行き当たりばったりで売れるものもまれにあるが、それでは現場の負担が増えるばかりである。そうならないための調査や下調べはバイヤーが十分行う必要がる。
また、売上の基盤となる「戦闘アイテム」はあるであろうか。
競合店には負けない価格、品質のものを用意することで、このアイテムは圧倒的に他社よりも優位に立っているという商品を準備することが大切である。

戦闘アイテムに関しては、売上の基盤となるため、目標数値を設定し記録しておくとよい。目標数値との差異があまりにも離れているアイテムについては、原因究明を行うことが重要である。売上を確保する重要なアイテムだけに、売れなかった理由を考察することで、確固たる売上確保を狙っていく。
その商品が、売上だけでなく利益も確保できるものであればなお良い。国産牛小間切れや豚小間切れなどは価格で決まるものであるので安い程よい購入頻度が高くなるが、その他のアイテムでABC分析のAランクアイテムを作ることが、より効率的に売り上げを作ることになる。そのアイテムを作り上げていくことが、今後の量販店の売り上げを伸ばしていけるかどうかの要となること他ならない。

近年は量販店が乱立し、低価格が激化している一方で、高品質なものもまた売れ始めてきている。その仕掛けをしているのも企業のバイヤーというわけである。
他社との差別化を図って、売上を効率的にあげ、さらに利益も確保できる環境作りを行うことがバイヤーの仕事。
計画通りに売り切るノウハウや、新商品を創造していく技術、仕事の仕組みを考えて効率的に業務を行える力をバイヤーは持って業務にあたってほしい。

 


TOPに戻る