| 食文化入門・料理とは何か? 石毛直道・鄭 大聲 遍 |
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| 1章 文化としての食 | |
| ・人間の食・動物の食 食物の文化に関して言えば「人間は料理をする動物である」 食事の文化に関して言えば「人間は供食をする動物である」 供食とは限りある食べ物をわかちあうことであり、この分配を巡って成立したルールが食事の作法である。食事は他者のまなざしを意識して営まれる行為であり、摩擦を解消し円滑に運営するためのルールが成立したもの。 ・料理とはなにか 「そのままでは食べられないものを食用可能なもの変化させる」こと、これを食品加工体系とよぶ。 食べ方を規定することを食事行動体系という。 この2つが統合して食事文化を形成している。 |
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| 2章 食べ物と料理 | |
| 1.ひとの主穀はどうして米、ムギ、トウモロコシなのか ・主穀になるための条件 @大量に収穫できる作物 Aエネルギーを多く含むこと B食味が淡泊で食べ飽きないこと C調理加工が簡単なこと D保存貯蔵が容易なこと E運搬移動が容易なこと ・穀物の価値 新しい生命体を生み出す種子であり栄養が凝縮されている。糖質はエネルギー源として必要 2.肉がおいしい、魚が好き・・・その理由 ・肉の味と熟成 体が求める成分は好ましいものと受け止める。好ましく感じる味を我々はおいしいと表現する。 肉や魚の味とりわけタンパク質からくる味の成分はアミノ酸である。中でもグルタミン酸が好ましい味とされる。 イノシン酸、コハク酸、タウリン、クレアチンなどの呈味成分が肉類の味を形成する。 熟成した肉がおいしいものと受け止められる理由は一種の消化過程を経て体に必要な吸収される成分単位になったから 魚介類のグルタミン酸で代表されるアミノ酸とイノシン酸で代表されるヌクレオチド。貝類のうまみはコハク酸。ベタインやトリメチルアミンオキシドには甘みがある。 3.「だし」の文化 人間は魚介類の味を別な形で利用する知恵を出した おいしい成分だけを利用した「だし」である。日本はカツオ節だし、雑魚 コンブ椎茸。 ヨーロッパではブイヨン、朝鮮半島ではユッス(肉スープのダシ)鳥獣類が材料となる。 中国でも畜肉類が主流である。 このだしの利用の仕方こそタンパク質摂取の違いの延長線上に見られる文化の違いである。 仏教の戒律で獣類の食用が禁じられ魚食の色が濃い日本ではダシも海産物であったのだ。 4.食べ物保存の知恵 食品の保存や貯蔵の為には微生物の繁殖を抑制するか殺菌することが必要。 食品の水分が15%以下になると微生物は発育しない。 微生物の発育最適温度は25から37度。 乾燥、低温保存、加熱殺菌、また空気や光と遮断し、酸化を防止する。 ・保存方法 ● 漬け物法 冬を過ごす地域の人間の知恵が生み出したもの。 塩分や糖分の浸透圧、酢などの酸による微生物の発育防止による保存法である。 本来はたとえば秋に収穫される野菜は冬得られないので保存手段として漬け物にした。 しかし現在では年中野菜は入手でき、漬け物は、塩味の酸味のついた野菜ぐらいにしか受けとめられていない。本来の食文化としての漬け物の価値は見失われたと言えよう。 これと同じことが燻煙法でも言える。本来燻煙は貯蔵法であった。食品の食塩と燻煙時の脱水、煙の成分が一体となって微生物の発育を抑える。しかし新鮮な食材がいつでも手に入る時代、燻煙法は貯蔵ではなく味を付ける加工方法であると受けとめられている。 5.調味料の文化 西洋のソースと日本のしょうゆとは色も味も似ている。しかし、何を使うかと言うところに文化がみられる。 アジアの調味料は米やダイスが使われるところに特徴がある。みそ、しょうゆはその典型である。ダイスがアジア原産であることに由来する。 タンパク質をアミノ酸に分解し、グルタミン酸のうまみを引き出したのはアジア人の味覚を形成するのに一役買っている。 しかもこの成分には塩が絡むのである。 ・香辛料とは 植物性の乾燥物が主である。 味の調和、食欲増進、防腐酸化防止。 食生活の向上、料理法の多様化、料理文化の交流などによって香辛料の使用は益々多くなっているがこれも食の文化現象といえよう ・香辛料と気候 暑い地域の食欲増進には「辛みの香辛料が多く使われる。唐辛子は朝鮮半島では南の方が多く使われる。コショウも同じく亜熱帯産で、そこで暮らす人の知恵であろう。 こしょう、唐辛子、わさびには防腐、抗酸化効果がある コショウは肉の腐敗を止める効果がある。とうがらしのカプサイシンにも「保存効果がある。朝鮮のキムチ、コチジャン、日本の辛子明太子、などはその効果を期待した保存食品である。 しかし保存技術が発達した現代、調味料には料理をよりおいしくという価値観に変わってきている。 6.おいしく食べる知恵 日本の調理に対応する言葉の英語はクッキング、フランス語はキュイジーヌ。いずれも煮る・焼く・ゆでるなど加熱することを意味する。中国語のポンティヤオも煮炊きすることである。世界的な調理の概念は「加熱」である。 この観点からいうと、日本の刺身は文化的変形がまったく加えられていないものといえる。 食べ物のおいしさを口腔内のことに限って言うと味覚、臭覚、触覚の3要素に集約できる。このうち触覚は特にテクスチャーという。 舌触り、歯触りは「・・らしさ」を決める信号と考えられる。より高次な文化的判断であろう。文明の発達とともに如何に望ましいテクスチャーを創出し再現する調理技術に知恵が絞られる。 中国の代表的な調理法は、油脂、水を電熱媒体にする調理技術が主流である。油で炒めるだけで7種類(短時間炒める、長時間、高温で、揚げる、あんかけ、煎り焼く)ある。「爆」バオという方法はあらかじめ高温に熱した鍋に少量の油で素材を炒める方法、これによって表面は熱変性内部には火が通らないテクスチャーがのこる。このようなサブカルチャーともいえる細分化された個々の調理法が一つの技術体系にまとまって中華風の食文化を支えている。 フランス料理の調理法の要素技術は、炒める操作より水媒体の加熱という点で、だし汁のバリエーションが多くそれが「フランス料理はソースが決めて」というような特色を構成している。従って「煮込む」「ソースで煮込んだように見せる」調理法が主流である。牧畜社会に共通である、乳を出さなくなった雌牛のかたい肉を食べるのには長時間煮込む必要があったし、子ウシがだし汁の材料として多く使われるのは、雄の子ウシは早くと殺され食用にされたという事情によるもの。 ・日本料理の特色 魚介類を生で食べるということから、切るという技術に関心が向いた。 「割主烹従」「包丁10年塩味10年」という言葉に代表される。 中国の包丁が2種類であるのに対し、日本の包丁の種類は20数種類。 ただし、特定の魚処理専用のものや野菜の下ごしらえ専用のものが多い。 7.盛りつけの美学・食べ方の美学 フランス料理は香り、中国料理は味、日本料理は盛りつけで味わう。 毎日客をもてなす料亭やレストランでは高級になるほど「神迎え」に近い舞台装置を仕掛け、客をもてなす。客は神様、貴族、貴婦人として扱われる。 ・盛り型のパターン 食べ物を盛る本来の目的は生花が仏のためであったように、神仏のためであった。 盛りつけ美学の3要素(井上忠司による) @広げながら高くする。基本は円柱。角柱。井桁。逆円錐など A狭めながら高くする。杉盛り、高山盛り、山盛り、台形盛り B低くしながら広げる。神饌では懸魚や懸鳥。刺身の平づくり、八重づくり 散らし盛り、前菜の盛り合わせ。 その散らし型は直線か曲線の2に集約される。 この3つが3大要素であり、4つめに、弁当や炊き合わせの「よせる」というコンパクトにするかたちがある。 風景を箱庭に見立てて盛る方法も日本にある。中国では前菜を花鳥に見立てる。 生花にたとえると@Aの高く積む野は「真」であり、Bは@Aをくずした「草」であり、Cは新様式の「行」に該当するといえる。 日本料理の器の種類の多さは他に例を見ない。取り合わせの妙は茶道の影響ではあるが、流は平安時代の貝あわせ、花あわせにまで遡ることができる。 日本料理の盛りつけを大きく分けると、平盛、小山盛り、小杉盛り、小台形、山水、一文字、薄盛り、盛り込みに区別できる。 ご飯は小山盛り、和え物は小杉盛り、炊き合わせは小台形。 刺身は山水。向こうを高く手前を低く、サラダですら山水に盛る。 焼き物は一文字。 料理と器の対比は6:4あるいは4:6。 空白が多く皿の美しさとともに賞でる。 ヨーロッパ、中国、韓国では平面的で余白はほとんどない。量感とドラマティックな演出でなりたつ。日本料理は時に「オードブルだけ」と評されることがある。 日本料理は材料を「赤、白、黄、緑、黒」の5色を好む(刺身と煮物くらいだが)その思想は中国の陰陽五行の思想である。 前菜は欧米では対称的に盛るのに対し、日本は非対称。 フランスは偶数、日本は奇数を良しとする。七五三を良しとするのは鼓動の響き心拍数がリズムとしてよく合うから。 そして奇数(数寄)を好むが故に料理も山水盛りが出来るのである。 日本料理は食事のエンジョイよりも形式としきたりを重んじてきた。 味よりも見た目の美しさを重視した。日本料理から器と盛りつけを取り去るとまったく貧弱であるといえる。 |
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