大手食品卸 | |
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大手食品卸、中間流通をめぐる市場争奪戦が最終段階へ | |
食品卸業界の再編が最終ステージに入ってきた。菱食は同業の食品卸ばかりではなく、小林製薬系の日用品卸と提携。業態の垣根を越えた提携戦略を展開すれば、三井物産系の三井食品は全国的なネットワークを構築すべく、地方の中小卸との提携戦略を活発化、大手商社として中間流出への出遅れを取り戻そうと懸命だ。老舗の国分も地域卸と合弁会社などを自社子会社に切り替えるなど、グループ内の再編で体質強化。また、日本アクセスも基幹システム導入によるローコスト化で競合激化に備える体制整備に乗り出した。 03年度の大手食品卸の業績を見ると、売上高は増えたものの、利益段階になると減少する企業が目立つ。今後、食品市場自体の拡大は期待薄だ。しかし、小売業の出店広域化、さらにはドラッグストアの食品部門拡充、コンビニの医薬品販売解禁など小売の業態を分けていた垣根は低くなるばかり。規模の拡大と機能の強化─。大手食品卸による食品中間流通の覇権争奪戦は最終段階だ。 |
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日用品、医薬品の取り込みをねらう菱食 | |
小売の業態変革に備えた独自の機能強化を図るのが菱食だ。同社は地方の卸との提携、つまり横の連携では三井食品などと比べ派手な動きはみせていない。だが、最近、三菱商事とともに小林製薬の子会社で日用品卸であるコバショウと提携した。 提携内容はコバショウが菱食の売上高1兆円を支える情報、物流システムのノウハウを吸収。一方、商事、菱食はコバショウの取引先であるドラッグストアチェーンや薬局に得意の食品や新規商材、つまり健康食品などを販売するという。 加工食品と日用品、医薬品など常温物流の統合。古くて新しい課題だが、これまでは業態の垣根がどっしりとあって、取り組みが遅れている分野だったが、そこに菱食は切り込む格好だ。菱食はかつて、ヨークベニマル向けの物流業務で、日用品まで含めた一括物流を受託した。しかし、その際はノウハウの蓄積が不十分で必ずしも成功に至らなかったが、今回はその教訓を生かし、異業種と提携して再編入する。 商事、菱食がコバショウとの提携に踏み切ったのは小売業で進んでいる業態の変革が背景にある。ドラッグストアが集客力強化をねらいに、24時間営業の店を増やし従来の医薬品、日用品、化粧品を軸とした商品政策から食品を拡充。コンビニやスーパーの顧客を奪っている。 逆にコンビには医薬品販売の解禁もあり、各社医薬品を品揃えする方針。医薬品販売では今回、「売れ筋の風邪薬や胃腸薬が対象品目に含まれず不十分」(大手コンビニ)だが、風穴の開いた規制は今後緩和の方向に進むのは不可避的な流れ。商事、菱食は取扱商品の垣根崩壊を見据えた将来戦略の第一歩を踏み出したといえる。 ただ、商事はもちろん、食品卸のスケール拡大にも意欲的。明治屋、旭食品、カナカン、佐藤、丸大堀内という親密な関係にあった中堅クラスの卸と手を組み「アライアンスネットワーク」を結成した。菱食の1兆円を加えると商事系卸は2兆円に迫る規模だ。まだ、緩やかな連携にとどまってるうえ、仕入原価などは「売上高1兆円を越えると規模の利益が出ない」といわれる食品卸業界にあって、この5社と菱食の相乗効果は未知数。規模の利益をいかに引き出すかは今後に課題だが、おお化けしないとも限らない。 |
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物産、地方卸への出資で川中進出 | |
一方、物産は、中間流通分野で先行している商事、伊藤忠に対し、その軸となる三井食品のスケール拡大に乗り出した。物産が提携関係にある地方の卸への追加出資や新規の資本提携を実施している。 三井物産はこれまで、中間流通は三友小網を軸としてきたが昨年来、追加するなどで財務体質を改善、人材の派遣などで機能を強化するなどでテコ入れ。社名も今春、三井食品に変更した。 その上で打って出たのが地方卸の糾合。今年に入って広島のニイミ食品、東北の有力食品卸の佐藤に出資したほか、北海道地盤の酒類卸、北酒連株の16.6%取得し筆頭株主になった。佐藤は商事系のアライアンスネットワークの一員だった。さらに、静岡地盤の石野源七商店からは酒類卸を譲り受け静岡県に販売拠点を構築したほか、中部の食品卸・梅沢には追加出資と、文字通り矢継ぎ早の提携戦略といっていい状態だ。 物産は商事や伊藤忠、さらに丸紅が派手に小売業に出資し、グループ化を勧めていた際も粛々とイトーヨーカ堂(IY)グループとの包括提携とIYグループとの取り組み強化を中心にリテール戦略を展開し、IYグループとの取引を深耕。買収を軸としたリテール戦略で先行した商社と一線を画してきた。 だが、菱食が1兆円の大台を突破し、伊藤忠商事が伊藤忠食品、西野商事に加え日本アクセスの筆頭株主となり社長まで派遣するなど、覇権争いは激化する一方だ。 物産は広域化するIYや、セブン-イレブンの出店戦略に歩調を合わせたためもあるが、出遅れていた地方や地域の小売業の商権獲得は焦眉の急。地方の卸を糾合してネットワーク力を強化したり、規模の利益を引き出したりと、中間流通分野での出遅れをなんとしても取り戻さなければならない局面を迎えている。 伊藤忠から社長を迎え、社名も雪印アクセスから変更、新体制となった日本アクセスは商事や国分などが出資、商社・卸の共同出資会社的な構造であり筆頭株主である伊藤忠も難しい経営の舵取り。だが、新体制発足後に第二次中期経営計画を策定、株式の公開に向けた経営体質の強化に取り組むと同時に、競合激化を対応する方針を打ち出した。 |
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日本アクセス、情報システム機能強化で低コスト経営へ | |
商事、物産のように再編を主導するというよりも日本アクセスは、強みである冷蔵・冷凍物流分野をブラッシュアップ、これに常温食品の物流を加えた3温度帯カバーという持ち味をさらに強化する方向だ。 戦略の中心となるが、ネットワーク型機能強化基幹システム「Captain」の構築だ。今年度(05年3月期)から全38支店に同システムを導入、従来支店単位だった受発注や売り掛け、買い掛けといった商流機能を東西の2つの支社に集約。商流と物流を分離することで物流の効率化、さらに事務作業の低減、ローコストの運営システムを築くという計画だ。この結果、最終年度の07年3月期には販売利益にかかる経費率を現在の97.2%から一気に7ポイントダウンさせ、90%台に引き下げる。また、売上高は現在(7724億円)より10%アップの8500億円、売上高経常利益率も現行の25億円(約0.3%)から同1%の85億円とする計画だ。 独立系の大手卸、国分は粛々とグループ内の再編を実施、さらにグループ力強化に動いているし、伊藤忠食品も外食分野など新たな取り組みを開始した。それぞれの方向性を見出す大手卸各社。小売の変質とも連動しながら、再編最終ステージは波乱含みの展開となりそうだ。 |
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菱食 フルライン化の完成で示す存在感 後藤社長が語る西友へのスタンスと『流通革命』 |
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7月1日からの2日間、平和島の東京流通センターで、「リョーショクグループ2004グランドフェアー」が開催された。菱食、アールワイフードサービス、リョーショクリカー、リョーカジャパンのリョーショクグループが一堂に会して、取引先に対する「食のフルライン化」の総合プレゼンテーションが披露された。 例年3月に実施されていた同フェアだが、今回から7月に実施時期を移行したのは、フェアを実態的に商談に少しでも結び付けようという意図であろう。特に今回、昨年10月に誕生したアールワイフードサービスが参加したことで、加食カンパニー、菓子カンパニー、酒類カンパニー、低温・フードサービスカンパニーの4つのカテゴリーカンパニーが出揃ってのお披露目となり、リョーショクグループが推進してきた、全温度帯のフルライン化の完成が強くアピールされた。 開催の規模は、出店企業数が707社に及び、2日間の取引先などの述べ動員数(案内による計画値)は、4900企業、1万1200人に上る大規模なものとなった。開催に当たっての会見の席上、菱食の後藤雅治社長は、「カテゴリーカンパニーが、それぞれ専門性を追求する。グループとしてフルラインを志向するということで、昨年からグループ経営をスタートさせている。その結果、今年のフルラインの『グランドフェアー』が充実したものとなった。いままでの情報システムとロジスティクスに加えて、卸の本来の機能である商品に着目した。営業方針として卸の商品調達機能、商品提供機能をもう一度、磨き直そうと言明している」と語った。 こうしたグループ戦略の背景には、アールワイフードサービスの設立と、イオンや西友などの大手小売業が推進するメーカー直接取引拡大などの市場環境変化がある。卸の生き残り戦略として、SCM再構築における活動領域を、マーチャンダイジングやマーケティング、あるいはフードサービスの分野まで拡大し、より深く、幅広い存在感を獲得しようというわけである。 特に今年春先には、西友が40年に及ぶ菱食との取引を中止。危機が現実のものになったわけだが、後藤社長は、以下のような注目すべき発言を行った。 「中間流通を必ずしも卸がやらなければならないというわけではない。社内でもその認識を徹底している。ただ、中間流通を菱食がやったほうが、取引先のためになるということであれば、菱食に依頼がくる。中間流通の機能というのは、決してなくならないということを前提に、誰がその機能を担うかという競争力の問題だと理解している」 しかし、イオンに対しては「不都合があれば、再び菱食が担当するというスタンス」(後藤社長)なのに対し、西友に対しては、大きくニュアンスの違いをみせた。 「西友については、ご存知の通りウォルマートの考え方だ。ウォルマートは中間流通を自分達で体内化している。ウォルマートが西友の筆頭株主になった時点から、菱食としては競争者という認識に立っている。ウォルマートは、菱食の存在(能力)を、あまり好ましくないことだと当然考えていると思う」 西友の事情として、営業力の回復が遅れる現状で、ウォルマートとその株主に対して、目に見える形の販管費の削減が必要だったということもあろう。ただ、あまりに唐突で厳格な取引中止という事態に、「西友にしても、一気に変えられるわけではないし、菱食にしばらくは物流だけでも委託するという考えもあるようだ。しかし、これはもう考え方そのものが違うわけで、菱食としては、線を引くことになった」と、後藤社長は言う。 「ウォルマートは中間流通を体内化して、一輝貫通でコントロールすることで、EDLPができるシステムを構築した。しかし逆にいうと、EDLPの商品しかできない。いま日本の小売業が、ウォルマートに対抗して、ウォルマートと違うやり方で、一生懸命努力している。その点で、菱食の機能は、十分に価値があるし、活用していただけるものだと思う」 一方、業界関係者によると、西友の業績は6月中旬現在で、予算比で5%以上、前年比でもマイナスになっている模様。スーパーセンターを含む直近3店の新店も、予算比8割程度の稼動と、余談を許さない状況が続いている。図らずも菱食とウォルマートの確執が、50年の時を経て、『流通革命』の問題提起に再び焦点を当てている。 |
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