| 「部下に対する力強いメッセージ」の条件は何か |
仕事は増えても人は増やせない。増えた仕事を部下メンバーに落としこむことができなければ、自分でがんばるしかない……。長引く不況の中で、部下を預かるマネジャーにとっては受難の時代が続いている。 我々コンサルタントは、あらゆる組織のマネジャーにインタビューや考課者研修を行うなどして、彼ら彼女らの考えや意見に直に触れることが増えてきたのだが、そのようなやり取りの中で興味深い一つの気づきがある。それは、これだけの不況の時代であっても、どこの組織にも元気のいいマネジャーはいるもので、さらにそのマネジャーたちにはある共通の特徴があるということだ。 一言で言えば、それはビジョンを描き、それをもって部下を鼓舞できるマネジャーである。しかし、このビジョンという言葉は、どうもごまかされているようで腑に落ちない。もっと簡単な言葉で言えば、元気のいいマネジャーとは、それは「作戦を語れるマネジャー」であるということである。それも単なる思い付きの作戦ではない。例えば、上から必達の数値目標が下ろされたから、仕方なしにその達成のためのアクションを練るというように、昨日今日で考えた「とってつけたような作戦」では決してない。ではどのようなものか。それは、ある種「いやらしい作戦」とでも呼べるくらいに、儲けにつながる、あるいは成果につながるためのイメージが湧いて、関係者をわくわくさせることができる、そのような作戦である。
人は何に動機づくかというモチベーションの理論から考えると、「そもそも、その目標を達成することは自分にとってどんな意味があるのか」とか、「その目標を達成したらどのように評価されるのか」などの、広い意味での仕事の報酬が見えなければならないのであるが、昨今の経営環境では、それらの要因よりむしろ「その作戦に一枚かみたい」という一瞬のときめきのほうが有効なようだ。 会社更生法の適用を受けたある企業に、新しく建て直しのために雇われた(エグゼクティブ)マネジャーの実例がある。そのマネジャーは一見、無謀とも思える高い利益目標を掲げそれに向かって走り出そうとしているのだが、その達成のための作戦を直に聞くと、第三者のこちらまでもが、「もしかしてこれは十分いけるのではないか」とわくわくしてしまうのである。 もちろん、これは再生を検討するプロセスの中でそのマネジャー自身が財務状況をはじめとする現状をつぶさに分析し、そして新しいビジネスの方向性と改善テーマを示しているからこそ、力強いメッセージになっているのである。また、そのメッセージも初めから皆の賛同を得るものではなく、ときに否定的な反応や批判的な意見とぶつかることも多かったはずだ。
しかし、それでも利益目標の背景にある信念や意図を、根気よく言葉で説明したり、他者の反論も真摯に受け止めたりしながら、修正あるいは新たな言葉で解釈し直し、徐々に説得力のあるものとし、結果として独りよがりの部分が削られた「作戦」になっていったと考えられる。
このようにして、初めは夢物語でしかない目標も、その実現がイメージできるように十分な道筋が加わることによって、他者を鼓舞させるものになっていくのである。この事例が教えてくれるのは、「マネジャーは決して饒舌である必要はない。しかし、他者の納得を得るためには力強くかつ根気強く話すことが不可欠で、その意味で雄弁ではあらなければならない」ということではないだろうか。
マネジャーにとって他者の「納得を得る」こと、そのスキルを磨くことは極めて重要で、それにはやはり言葉による的確な説明(表現)を繰り返していくことなくしてはありえない。
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| 最終結果につながる明確な基準をつくれ |
では雄弁であるためのポイントについて、評価のケースで考えてみたい。
最近、バランススコアカードというマネジメント手法が脚光を浴びていて、これを組織や個人の評価制度に落としこもうとする取り組みも増えてきた。
バランススコアカードを用いた評価制度とは、「売り上げ」や「利益」などの短期的かつ財務的な成果だけではなく、その最終成果につながるプロセスにも「顧客満足度の向上(顧客満足率○%アップ)」や「業務改善度の向上(労働時間○時間削減)」などの明確な基準を見出して、それらをバランスよく評価していこうとするものである。
最終成果に結びつくプロセスが吟味されたうえで、それぞれのプロセスがゴールとしての目標値を持ち、効果的に管理・評価されれば、「今現在だけでなく、競争優位性を将来にわたって維持・確立する組織になることが期待できる」という点で、このバランススコアカード評価制度に大きな期待がかけられている。しかし、実はここでもマネジャーの作戦を立てる力とそれを言葉で説明する力が、大きく成否を左右するという事実がある。
例えば、ある部署のマネジャーが「顧客満足度の向上」を指針としてメンバーに示す場合である。それが、提案時に問題解決を示すことで満足を得ることを意味する顧客満足なのか、それともアフターフォローで安心感を提供することで満足を得るべき顧客満足なのかなどの明確な定義づけを付随させなければ、メンバーの腹には落ちないし、行動の変容にはつながらない。なぜならば、「顧客の満足度を向上させよう」などと声を張り上げても、それは当たり前の話で、総論では誰も反対しないし拒否もしないので、ほとんど意味がないもの、今までと何ら変わらないものになってしまう可能性が高いからである。 逆に、それを提唱したマネジャーの思いや意図の入った具体的なイメージが加わると、さきほどの総論のときには聞こえてこない賛成意見あるいは反対意見が出てくることになる。これは、具体的なイメージが湧くにつれ、部下である関係者の損得や好き嫌いがはっきり見えてくるからである。 実は、一部から反対意見が出るくらいまで、具体的な説明を添えなければ、「顧客を大切にする企業になる」とか、「従業員にとっても魅力ある企業になる」などの至極当然なキャッチフレーズだけでは、他者のイメージをかきたて、その実現に加わりたいと思わせる(ひらめきやときめきを与える)ような、真の意味での作戦にはなりえないのである。
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| 総論的な言葉は誰も反対しないが、誰の腹にも落ちない |
ご自身のマネジメントを振り返っていただきたい。今期の評価のテーマとして「顧客を喜ばせる提案をしよう」とか、「営業支援として現場の営業の役に立つ情報を提供しよう」など、当たり前のことを示して終わりにはしていないだろうか。また、「訪問件数や提案件数も評価の対象にします」などと、結果だけではなくプロセスを大切にするとは言いながらも、「ただ件数が多ければ本当にそれでいいのか」という本質的な問いには答えないまま終わってしまってはいないだろうか。
ある企業で新規サービスを展開する営業本部長は以下のような工夫をした。 その企業では、これまでの主力サービスが「低価格」を武器にしていて、それによるブランドイメージもそこそこ一部の市場に浸透していた。そこでこの新規サービスを導入する営業本部長は、営業活動を行うにあたり営業員に対して「提案件数受注率(ただし提案は10件以上)」というプロセス評価の指標をもうけた。 この場合、この受注率という基準には「むやみやたらではなく、じっくりと考え慎重に提案してほしい」という思いがこめられていた。なぜならば、その新規サービスは、既存のサービスを巧みに組み合わせて顧客の問題解決を図るというコンサルティングの要素を持ち合わせていたため、既存のサービスとは一線を画し、低価格というその会社の持つこれまでのブランドイメージを、むしろ払拭する必要があったからだ。
しかしその一方で、このサービス自体がまだ市場で未成熟であったため、早めに顧客にサービスの優位性や利用価値を認知してもらうという先手必勝のアプローチも同時に取る必要があった。それが「ただし提案は10件以上」という規定打数を条件に加えることになったのである。 このように作戦としての評価基準や方針は、マネジャーの意図が反映されていること、あるいはその意図をうまく反映した言葉になっていることが望ましい。つまり結論だけを単独ではなく、そこに至った理由と共に示されなければならないのである。 成果主義が当たり前のように導入されてからは、部下一人ひとりの評価に差をつけることだけでも重荷である。多くのマネジャーがそれを巧みに実践していくためには「そもそも何を評価のテーマにすべきか、何が重要な指標になるのか、どうやって成果を出すのか」までを責任を持って示さなければならないことに気づきはじめてもいる。
もはや未来が描けない者、成果達成のストーリーを語れない者はマネジメントを担う資格はなく、「結果として儲かればそれでいいのだ」としか言えないマネジャーは、遅かれ早かれその役割を失っていくことになるのであろう。 総論的、抽象的すぎる言葉は、誰も反対しないかわりに、誰の腹にも落ちないので、そこで終わりにしては意味のないものになってしまう。 だからこそ、雄弁なマネジャーを目指すことで、他者に伝える能力を高め、自分自身にとってもより深く理解する機会を増やしていきたい。
もちろん暗黙の了解や以心伝心などのこれまでの日本の良い文化を否定するわけではない。そのような良い部分は残しつつ、さらにお互いが曖昧なものを具体的な言葉にする努力を行い、言葉で議論することで、お互いの理解を深め、あらたな解決策を見出そうとすることが必要である。部下メンバー全員にこれを促すためには、まずマネジャーが起点となって考え、考えたことを発信していかなければならない。これがマネジャーの役割でもある。
そして、何よりもこのように雄弁であるマネジャーを目指すこと、つまり言葉にしていこうとする努力が、言葉を発するまでのプロセスで、多くのことを深く考えるかという最大の利点につながっていく。その考えの深さが言葉に力を与え、部下をはじめとする関係者の心を捉えるだけの興味深さをも兼ね備えるものになるのではないだろうか。
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