「国産肩ロースからの焼肉MD技術」
価格高騰が続く国産牛肉
 国産牛肉は15年12月24日のアメリカ産牛肉の輸入停止を受けて、「焼き材」を中心とする大衆牛肉約27万トンが市場からなくなったために、供給量がショートし牛肉相場は昨年から価格高騰が続いており、最近の価格は国産・輸入ともに高値圏に張り付いたままである。

 特に、国産牛肉の枝肉相場は、表@のとおり、「和牛A−3」は2000円/kg、「交雑B-3」は1300円/Kgから和牛の代替需要でそれ以上に続伸中、ホルスにいたっては800円/Kgアップと続伸中である。

 これは、焼肉商材をオセアニア産ばかりでは量的にも質的にもまかない切れず、国産牛肉に「焼き材」をマーケットが求めているからである。

 夏場の焼肉需要期に向かって、ロイン・バラ部位を中心に商品の取り合い状態でヒートしている。
今年の国産牛肉の供給量は、飼養頭数が、乳牛が15年2月171万9千頭、16年169万頭、17年2月165万5千頭。肉用牛が15年280万5千頭、16年278万8千頭、17年2月274万7千頭で、供給量の回復の兆しが見えない。

 従って、これから年末にかけて国産牛肉の供給はタイトで、米国産が解禁になったとしてもチェーンの外食中心に、始めは商材の在庫のストックから買いに入るために、解禁後3ヶ月くらいは外食の「買い」が先行し、米国産牛肉も国産牛肉も高値安定と予測される。そういう意味で、05年の末までは国産牛肉の高騰の中でのMD政策の見直しが早急の課題である。

表@ 牛肉の価格動向(牛枝肉の規格別卸売価格 東京市場)
  A-3和牛   B-3交雑種   B-2乳用牛
  円・Kg 前年平均 円・Kg 前年平均 円・Kg 前年平均
11年度 1,518 93.9 874 104.5 602 102.2
12年度 1,500 98.8 1,003 114.8 781 129.7
13年度 1,235 82.3 521 51.9 274 35.1
14年度 1,523 123.3 869 166.8 528 192.7
15年度 1,733 113.8 972 111.9 628 118.9
16年度 1,919 110.8 1,253 128.9 803 126.6
17年1月度 1,941 111.6 1,275 125.5 839 100
17年2月度 1,940 115.7 1,288 131.6 805 105.6
17年3月度 1,969 109.1 1,316 125 828 108.2
資料:食肉通信05年5月24日  税込価格で表示

夏場の「焼肉商材」不足対策
 現状は、牛肉消費の主役である「焼き材」がショートし、価格が高いばかりでなく必要な量そのものが集められない状況である。

 「牛タン」を例にとって見れば、国内生産はわずか0.18万トン。03年の輸入量がその26倍の4万737トンで、05年度はその8分の1くらいの輸入量になるだけに今年は「牛タン」を定番化する至難の「夏」になる。 「牛カルビ」も米国産を中心とした03年輸入実績24.4万トンの「バラ肉」のカテゴリーでの輸入が激減したことで、すべての「焼き材」が高騰してしまっている。

 04年は「豚・鶏肉」で、牛肉の代替需要があったが、05年は「牛肉需要」に真っ向に立ち向かわない事には小売・外食、ともに昨年以上の数字は残せない。

 夏場に消費の最盛期を向かえる「牛肉焼き材」の不足は確実で、アメリカ産の輸入が無い中で、「焼き材」の不足は大きな問題である。「バラ部位」からの焼き肉では、商品化に量的な限度があり、また、価格は外食中心に暴騰している。量的確保は非常に難しいと言える。

 そこで、今年の夏場の「焼き材対策」として、牛肉の焼肉を量多く販売するために、従来の商材と違い、冬場に需要の高い「スライス材料」として活用される需要の高い「国産肩ロース」の部位を「焼き材」として活用し、今年の夏の焼肉需要期を乗り越える「焼き材不足」の一つの対策としてみたい。

「肩ロース」が優位な点は
1. 国産牛肉が高騰の中でも比較的夏時期は価格が安い部位である。
2. 部位の大きさが、セット部分肉の中で約13%近くあり、量的に多くの焼肉を作る事ができる。
3. ネック部位など、焼肉に適さない部分をスライスにする事によってマージンミックスにより値入を多くする事ができ、比較的良質な焼肉を安く販売できる可能性が大きい。
というところにある。

表A去勢牛・和牛カタロース相場の推移(日本食肉流通センター)
  1月 2月 3月 4月 5月 6月 7月 8月 9月 10月 11月 12月
03年乳去勢チルド3 2,069 1,929 1,809 1,713 1,584 1,475 1,489 1,576 1,655 1,863 2,051 2,260
04年  〃 2,032 1,881 1,569 1,758 1,777 1,686 1,681 1,734 1,775 1,961 2,229 2,471
05年  〃 2,116 1,830      
03年和去勢チルド3 3,404 3,203 3,125 2,931 2,905 2,946 2,932 2,939 3,081 3,378 3,573 3,784
04年  〃  3,684 3,185 2,872 3,386 3,407 3,425 3,378 3,458 3,450 3,564 3,736 4,205
05年  〃 4,092 3,345      

「牛肩ロースからの焼肉MD技術」
1.「ネック」の分割と、「肩ロース」の3分割
 今回は、交雑種「B-3」の「ネック付き肩ロース」 芝浦市場で「24.4Kgの重量で 3000円/Kg」(消費税込み)」の価格のものを使用した。

 「肩ロース」は、7つの頚椎と、第6肋骨までの部分肉で構成される部分で、「ネック(ねじ)」は通常第3・第4頚椎」の間を切断し「ネック」を分割している場合が多いが、「焼き材」に活用する場合は「第6・第7頚椎」の間を分割する方が、「焼き材」の部分を多く取れ、ロス無く「スライス」に「ネック部位」を回せるので効率的である。

 また、「肩ロース」は、焼き材として「ロース芯」の筋肉にあたる「胸最長筋」部位。通常「チャックアイ・ログ」とよばれる「肩ロース芯」の部分と、「チャックフラップ」と呼ばれる「ハネシタロース(ザブトン)」と呼ばれる部分。「カブリ」と呼ばれる赤身部分からも、「中落ちカルビ」として使える 肋骨の骨と骨の間の肉(中落ちの部分をゲタとも呼ぶ)などからも「焼き材」が取れます。

 この「肩ロース」の部分を効率的に活用するために、写真のように第3・第4肋骨の間で分割する。このようにカットすると、写真のように「A・B・C」の部分が均等の大きさにもなります。

カッティング表@ 肩ロースの3分割
交雑肩ロース24.4Kg A(ロインサイド)7.460Kg B(中心部分)9.400Kg C(ネック部分)7.540Kg
重量構成比 30.60% 38.50% 30.90%
今回は、肩ロース全部を焼肉にせず、「A」・「B」の部分から焼肉を商品化し{C}の部分の「ネック」はスライス材として活用する。

交雑種の肩ロースはホルスと違って肉の厚みがあり、スライスばかりでなく手きりの焼肉にもむいている 肩ロース第6・第7肋骨断面 ネック(ねじ)は通常第3・第4頚椎か、第4・第5頚椎で分割するが焼肉用の場合は第6・第7系つで分割する方が焼き材を多く取る事ができ歩留まりよく仕上がる
「肩ロース」を焼肉用にするために通常よりも大きくネックを分離する 第3・第4肋骨で分離しネック部分から「C B A]と3分割する。こうすると大きさが3等分されるので、この状態で納品されれば焼き材のカットがしやすくなる

2.「A部分 肩ロース ロースサイド」からの焼肉の商品化
 ロースサイドの「A」部分の焼肉用のカットは、まず、太いスジを除去する事から始める。このスジ(バックストラップ)は、通常の煮込みでは柔らかくならないので今回のカッティングではトリミングで2次活用をしない脂と同じにし評価をゼロにした。

 次に、「チャックフラップ(ハネシタロース・ザブトン)」と、リブロースから続くロース芯の「チャックアイログ」を分割する。 この2つの部位が、肩ロース焼肉用の主役で、このロースサイドの「A」からは「チャックアイログ」の良質な焼肉用が商品化できる。

 この「A」部分を写真のように分割する事でこの「A」の部分からは「チャックフラップ」と「チャックアイログ」の焼肉。焼肉用の「カブリ」とバックリブフィンガーからは「中落ちカルビ」が商品化できる。

 「かぶり」は、薄皮を取り除く事が重要で、これが残っていると焼肉にすると硬い食感が残るからだ。
商品化までの歩留まりは71.2%で、かなり多くを焼肉にすることができる。

カッティング表A 「A」部分の出来高
 出来表 A(ロインサイド)7.460Kg
A@ 0.713 3.
AA 2.38
AB 1.539
中落ちカルビ 0.18
スジ・トリミング 0.5
その他(脂肪等) 2.148
合計 7.46

ケンビキスジ(バックストラップ)を除去する 中落ちカルビ(ゲタ)の部分にあたるバラ先を除去する チャックアイログとチャックフラップ(ハネシタ、ザブトン)を分割する
チャックアイログのバラ先部分(リップ、厚肋筋)を付けて分割する方が歩留まりが良い チャックアイログだけが分割される ミスジの先の部分(上腕二頭筋)が残っているので除去してこれをかぶりの焼肉に含める
ロースのリフターミートに続く部分にある筋間脂肪を丁寧に除去する フラップミートとカブリを2分割する カブリの部分も薄皮をトリミングすれば焼き材に活用できる
Aの部分を3分割したAから作られる焼肉材料。@フラップミート Aチャックアイログ Bカブリ フラップミートから作る焼肉用、手きりスライス。厚切りにしても、サイコロステーキやミニステーキにしても柔らかい部分。今年はうすい目でカットする Aのチャックフラップからから作られる焼肉よりはグラム100円焼くイ価格で設定する
チャックアイログから作る焼肉用。幅広く平切りにカットする チャックアイログから作られる最も値入ができる部分の焼肉用。2分割にして一口サイズに盛り付けても良い カブリから作る焼肉。交雑種や和牛のカブリは思いのほか柔らかく味と甘みがあり焼肉に適している
チャックフラップから商品化できる高品質のカルビ焼肉

3.「B部分 肩ロース 中心部分」からの焼肉の商品化
 肩ロースの真ん中部分にあたる「B」部分「チャックフラップ」からは良質の焼肉を「特上ロース」「特上カルビ」として商品化できる商品価値の高い部分である。

 まず、バックリブフィンガー3本を「B」からはずす。

 次に、「チャックアイログ」と「チャックフラップ」の分割は写真のように比較的容易にできるので、丁寧に薄皮や、スジを除去する。

 ここで、できる「チャックフラップ」には、「カタコブ」と呼ばれる比較的硬い「カブリ」部分が含まれているのでそれを分割する。
この「B」部分からの@「チャックフラップ」は、最も質の良い霜降りのサシある焼肉用を商品化できる。

 「霜降りステーキ」としても商品化できる部分で、肩ロースで最も高い売価を設定できる部分でもある。

 今回は、仮売価設定を「880円/100g」としたが、現状の枝肉相場であれば「980円」での価格設定も可能と思われる。

 A「チャックアイログ」は、「A」部分と比較して「B」部分では筋肉の繊維が詰まってきており、ネックよりになるにしたがって小さくなり、柔らかくなくなってくるので「ステーキ」用のカットは難しい。

 焼肉用には、手切りでも良いが、スライサーでも焼肉の厚さでスムーズにスライスできる。

 一口サイズの小さくカットするのもよいが、肉の断面がそう大きくは無いのでそのサイズで大きく盛り付けてみるのも面白い。
カッティング表B 「B」部分の出来高
出来表 B(中心部分)9.400Kg
B@ 3.372
BA 2.426
BB 0.92
中落ちカルビ 0.18
スジ・トリミング 0.46
その他(脂肪等) 2.042
合計 9.4


「中落ちカルビ用」のバラ先(ゲタ)を「B]の肩ロースの中心部分からはずす カバー脂肪を完全に除去するのではなく2ミリから3ミリ程度を付けて今年はトリミングする チャックフラップ(ハネシタロース・ザブトン)とチャックアイログを分離する
チャックフラップについている「カタコブ」部分を分割する {B]の部分を@チャックフラップ Aチャックアイログ Bかぶり に分割できる。(「中落ちカルビ」は最後にまとめて商品化する。) 最も質の良い「肩ロース焼肉用」がとれるチャックフラップ(ハネシタロース)これを、焼肉用の大きさに柵取りする
チャックフラップを焼肉用に敵利する。「ミニステーキ」や1.5センチ角で「サイコロステーキ」に商品かもできる。ロインの代替商品としても活用できる チャックフラップ「肩ロース焼肉用」最も高い価格を付けられる。今回は780円だが980円までの設定は可能 チャックアイログ「肩ロース焼肉用」手きりばかりでなくスライサーでスライスして商品化すれば厚さが一定になり商品化しやすい
他の焼肉と区別するために一口サイズではなく大きくカットしたままで盛り付ける カタコブの部分の焼肉の商品化。薄皮を完全に除去して薄くカットする カタコブやカブリからの焼肉。肩ロースの焼肉の中では比較的安く販売する。最も低い売価の設定にする

4.「C(ネック)」 部分からの商品化
 ネックのこの「C」部分を焼肉用にカットすることもできるが、手切りにして、@の「チャックフラップ」の端の部分とAの「チャックアイログ」の先端部分は合わせて「C」からは重量比で20%前後しかとることができない。そこで、外食の場合は、「ネック」部分を少し硬いが「焼肉」としてメニューにしたり、ミンチにして加工して利用できる場合もあるが、「ネック」部分を納品してもらわず、「A」と「B」の肩ロース部分を評価が高くても買う方が有利な場合が多い。

 小売の場合は、このネック部分をスライス材に活用する方が有利である。

 「C ネック」部分をスライス用にトリミングすると表のように部留り82.1%となる。

表C 「C」ネック部分のトリミング表
出来高表 C(ネック部分)7.540Kg スライス(切り落とし) トリミング他
重量Kg 7.45 6.116 1.334
重量構成比 100.00% 82.10% 17.90%

このネック部分をスライスすると「350円/100g」にて販売できるので、「C」を2000円評価にすると「A」と「B」部分は、以下の表のとおり、3447円/Kg の評価になる。
「C」  2000円/Kg  7.43Kg
「A」・「B」  3447円/Kg  16.86Kg

表D 「C」と「A」・「B」部分の評価
  重量 Kg 評価単価(円) 評価額(円)
AとBの部分 16.86 3447 58120
C ネック部分 7.54 2000 15080
ABC全体 24.4 3000 73200

 となる。また、「C」部分を「切り落とし」にすると、原価が2000円それが82.1%の歩留りなので原価が2436円/Kg となりこれを3500円で販売すると 値入率は 「30.4%」となる。

 このことは、一本の「肩ロース」を活用する場合、脂肪を多く含むロースよりの「A」の部分とこの「C」ネック部分はスライスに振り分け、肩ロースの真ん中部分の「B」の焼肉に最適な部分だけを分割して活用すればさらに歩留まりよく利用できる事になる。



5.「中落ちカルビ(ゲタ)」部分からの商品化
 「中落ちカルビ」は、「リブフィンガー」の部分をダイスカットしたものが多く流通している。肩ロースから取れるこの部分は、「バックリブフィンガー」の部分にあたる。

 サイコロ上に一口サイズにカットしても良いが、肉厚の部分を3等分にバラフライカットして商品化すれば、柔らかく、甘味の味わいのある焼肉用となる。

中落ちカルビ 中落ちカルビとして焼肉に商品化できる部分。「ゲタ」を中心に商品化する 食べても硬い部分の骨ハダをすべて除去する
焼肉の厚さに開くようにナイフを入れる バラフライカットのように最後まで切り込まずに開くようにカットする 残りの身の厚い部分をもう一度バタフライカットで切り開く
開いた中落ちかルビを一口サイズに焼肉用にカットする

6.「肩ロース」から作られる焼肉用
 このように、「牛肩ロース」からは、カット方法で多くの焼肉が取れる。一部位から多様で、重量が多く焼肉を作る事ができる。

 また、スライサーで「うすきり・切り落とし」などをうまく他用することでより歩留まりよく、利益が取りやすくなるので活用方法しだいで非常に面白いMD政策が取れることになる。

 今回のカットでは、表のBの表から 利益率が30.1%(税込み)となった。

 「B・C」部分は、この部分だけをとるとカッテイング表D から、「3447円/Kg」という評価で想定して作成した。

 ネックをスライス化することでこの肩ロースからは33.2%の利益率が想定される事になった。

 05年の夏のように「焼肉商材」が暴騰し、量的不足に悩む事は私が現役の時には2度とこないことと思われるだけに、今年は「焼き材」に頭を痛めることに楽しみを持って喜んで過したいと思う。

「肩ロースからのカルビセット」 チャックアイログ・チャックフラップ・中落ちかルビ・かぶりからの焼肉セット